降頭女王

 降頭術はインドシナ半島の安南(今のベトナム)暹羅(今のタイ国)に源を発する物であり、ソロモン教(すなわちバラモン教)の一種の道術であり、安南に一人の女洞主が出て来た。パァイマアチィントオと申し又の名はマアトォポオとも言い、十二個の部落・大小の計三十個の洞を掌握した。マアトォポオが若い時にかって揺族の大部落である保丹洞主の押寨夫人であり、洞主に罪を得て五官をそぐ刑を申し渡された。刑を行う前に二人のお側に仕える侍女によって救われて三人は逃亡し海に出てスマトラに到ってバラモン教に入り、修練する事十年にして遂に安南にもどって女兵を組織し、アボタン洞主を滅ぼしてその領地を取った。降頭術はマアトォポオの創始した物であり、心変わりした男に対するに用いた自衛術である。

 一九二〇年、即ち第一次世界大戦が経った第二年、フランス駐安南第十三旅団が国に返ろうとした兵隊を運ぶ船上にて二人の兵隊が嘔吐おうと病をわずらった。航海で嘔吐病はつきものであるが、しかしこの二人の兵隊は吐こうとしても吐かず、お腹がますます大きくなってきた。二人の兵隊の一人は十九才、もう一人は二十才であり、この時に兵を運ぶ船はインド湾を経過し紅海に向かって出発していたが、この二人の兵隊は彼らをつれて安南にもどってくれと大騒ぎした。船上の軍医は彼らを診察したがどうしょうもなく、彼らのウナリ声につれてお腹もますます大きくなってきた。医者が彼らのお腹を見るに丁度ツヅミのようにポーンポーンと音がする。中に水がありしかし固い物があってそれがぶち当たる音であり、聴音器で聞くとお腹に呼吸する音が聞こえるが、しかしそれは彼ら本人の呼吸ではなかった。彼らが痛いと叫びながら一斉にヒステリックに

「俺は安南に帰りたいんだ!俺をもどしてくれ!船の上で死にたくない、俺をもどしてくれ、長宮お願いだ…」
「なんでそんなに安南に帰りたいんだ」
「長官、私はしばられてしまっている、もどらないとここで死んでしまう、お願いだ長官、私は死にたくない」
「言ってみろ、どんな事なのかハッキリとしゃべろ」
「私が船に乗って離れてゆくのをゆるさなく、彼女は軍団の中の衣服を洗っていた女であります」
「お前、何をバカな事を言っておるのだ!軍律に服従しなければならん!」長官お願いだ、彼女は早くより私に言っていた。もしも私の言っている事が聞けなければ行きなさい、一日も出ない内にあなたのお腹は蛇にまとわりつかれて苦痛で死んでしまうでしょう。自分で選びなさい、と。」
「私は軍律に服従して船に乗って来ましたが、私は現在蛇にとりつかれている。私を救って下さい、私の一命を救って下さい、彼も又同じです。」

 長官が別の一人に尋ねると情景は全く同じであり、彼の場合は軍団の中の兵隊の服の修服を行う少女であり、ワータアンと称する。男女が相知り合う事一年位、、休みにはいつも遊びに行き、女の家にも遊びに行った事があった。長官が彼女らと婚約をしたのかと聞くと、

「我々は皆口約束をしてあり、我々は彼女らを愛しており、退役してから彼女らをつれてフランスに行くと約束したのですが、彼女らはすぐに退役しろと要求し、私たちの衣食住の面倒を見てくれる事が出来ると申すのですが、この事は我々が何で出来ましょうか?」
長官が「彼女らと肉体関係が発生したのか?」

 聞くと二人は承認した。長官はこれらの事がわかったが、しかし彼には二人の兵を安南につれて行く力がなく且つ彼らの言っている事は信じられない事であり、科学的ではなかったからである。医者は鼓脹病と断じたが、これは温帯の湿気より引き起こされたのであるとし、手術を必要とするがしかし船上では機械に欠乏しているので、それは不可能であって、二人の兵隊には鎮静剤を飲ませてかれらを眠らせてフランスについてから手術をすると決定したのであった。

 兵を運ぶ船は継続して紅海を航行している時、時間は真夜中の三時。助けてくれとの大声が船倉ないにひびきわたった。二人の兵士は船板の上をころがり続けており、鎮静剤の効果が退去したのであろう、二人は腹内の強力なるしぼるような痛みに耐えきれなく、一人は狂い出した。苦痛に耐え切れなくなったのであろう、彼は一本のフォークを手に持ち、猛烈に自分の腹の中をメチャクチャにつき刺した。兵隊たちは彼をつかまえたが、時すでに遅く彼の腹は全部血にまみれており、医者が直ぐ来た時には彼はすでに気絶して居り、彼の衣服を開くとみんなが見守る中、奇怪なる事件が出現した。

 彼が腹を突き刺した所には五つもの穴が開いており、どの穴にも一匹の蛇が穴よりはい出てきて、あっという間に五匹の蛇がすべてはい出てきて外を見ておる、兵士達は安南で蛇は見慣れていた物であるので、みんなは恐れず何人かの兵士たちは工具を持って蛇が船板にはい出てきてから蛇を打ち殺そうとした。これらの怪異に医者はボーッとあきれてしまっていて、どんなにしていいのかわからなかった。この時にまだ救治出来ず、彼の腹中の蛇はまさにあいた口のところよりはい出ているのであった。蛇がはい出てから彼のお腹は段々とおさまってきた。更に医者が不思議に思ったのは腹がキズついても、血ず流出しなかったのである。兵士達が蛇を打ち殺している中、また二匹の蛇がはいずり出てきた。その他の三個の穴からは血が流れ出てきた。医者は急いで三つの傷ロに止血消毒をし、この二匹の蛇が出尽くしてから継続して救治しようとした。

 船尾でころがり続けているもう一人のうなり声はますます微弱となり、死の境をさまよっている。医者が二匹の蛇がおはらを出てから、二つの傷ロに治療を施した。彼の心臓は跳動しており、段々と危険なる時期が過ぎて行った。長官と医者はこの時になって始めて二人の兵士の言っている事はウソではないという事がわかり、眼前に鉄の如しの事実があり、七匹もの蛇が彼の腹よりはいずり出てきたのであり、彼らの内臓の苦痛がどんな程度であった想像出来よう。

 長官はすぐに判断し、もう一人の彼の腹をさく事を命じた。円形に腹らんだ彼のはらに、医者は消毒をした小刀をはさみ入れると、かすかなる音が聞こえ、彼と同じく蛇の頭が出てきた。先づ蛇の口の赤い舌がが出てきて、すぐに蛇の頭、そして全部の蛇の頭が露出してきたのであり、丁度蛇の卵よりふ化して出てきたようであり、医者は蛇が出てきてから細かに観察していると、果して第二匹目の蛇がまた出てきた。
 兵士達は打ち殺そうと見構えている。先の彼と同じく出てきた、蛇は七匹であり、彼の御腹も真び大きくはならず、医者は血止めの薬をしてからは彼の呼吸も又おだやかになった。打ち殺した十四匹の蛇は、すべて無毒の蛇であった。
しかしこの二人の兵士の御腹の中にまだどんな物があるか目的地に到着してから、手術が行われるのである。

 1920年5月4日、フランスの兵を運ぶ船ホアニヤ号の航海日記では、これらの事が記載されていて、そして評語を加えている。これは皆が目撃していた事で、かれらの御腹の中にから同様にキズ口より七匹の蛇がはい出してきて、救援を行っているシャ医者も又解釈が出来ないと認めた。
 シャ医者がこの事を分析するに、ただーつの可能性があるのは二人は蛇の卵を口にし、小蛇が御腹の中でふ化して出てきて御腹の中をはえずりまわったので、病者は攻め打つの痛苦を受けた。しかし、シャ医者は解釈が出来ないともみとめ、それは二人の病人はすべて言っている。彼らは御腹の中に「蛇縄」がある事を知っていた。二人の彼らに郷土を離れさせないのであるが、しかし彼らは軍令に服従し、彼等が離れたので、「蛇縄」が彼等に制裁を加えたのであると。
 まだある、二人の病人の御腹の中の蛇はどこから来たのか、蛇がふ化して出てきた物であるのか、科学では証明出来ない物である。二人は病院で詳細なる検査をし、又胃を洗ってから、病院に住む事一週聞、すでに退院をした。

 1923年5月、イギリス・フランス・スウェーデンの三国の山登り隊よりなっているヒマラヤ探検隊がもどる中に於て、安南・暹羅を訪間した。フランスの探検隊はとくべつに安南の邪術について調査を行った。民聞に深く入っては常に訪問を拒絶され、人民からは談話されなかったが、さて一種の「降頭」術に関する特別な資料が得られ、二人の兵を運んだ兵船の事件の解答が得られたのであった。
 調査をしてて得られた所によると、安南の降頭術は安南の旧主クウマアナアトヲの発明する所、それは婦女の一種の護身術で、その源流を考えると即ちバラモン教の支流であり、婦女が男にいじめられれば、その本人をこらしめるのであり、それに苦痛を与える物であり、せいめいをあやうくするのではなし。
 降頭術を施行した年代はとても長く、法術にも又変化があり、それにより降頭にも又流派があり、しかも降頭をかける対象も婦女の自衛の時には限らずして、降頭の門派の争いも又起こったのであった。

安南にて

 西貢(今のホーチミンの事)、ここは安南で最も早くより開発された都市であり、安南へ商売をしに行ったり、中西の商売でおおよそはここにむらがり集まっている。一人の潮州の商店であるリンアエンはここで一軒の広東ミヤゲを売る商店を開き、アエン商店と申した。彼がここで商売をした時にはただ二十七才であり、多くの福建人の人は若い頃より故郷を離れて南洋に向かっててんちを開こうとした物である。リンアエンがこのアエン商店を開いたのは当地の親しい友達のつながりであり、おみやげ店は独り商売であったので営業は盛んで、これに於いて彼は一歩進んで当地のタバコを故郷に持って帰り販売して、商売は又大きくなって行った。アエンはまだ結婚していなく、男一人事業の基礎が出来ると、自然と妻をもらいたい気持ちが起こった。経営する事二年にして当地の言葉もわかり、ひまな時には堤岸に遊びに行った。

 堤岸(南ベトナムのホーチミン市より少し離れた所にあるショロンという名の町)はここの繁華なる場所にて彼は一軒の酒家(バー)にて一人の侍女を見つけた。祇念と呼び年は二十才にも満たなかった。祇念の顔はやや面長で長髪は腰まで垂れ、両眼のクルクルとしているヒトミ、これらの少女の優点にアエンは引き寄せられ、いつも堤岸に行き酒を飲み、祇念の性格や背景をより多く了解した。彼らは休みの時には外に遊びに出、半年を経過して密友と成り、りンアエンはついに彼の心の願いを打ち明けると、祇念は頭を低めはなかみながら「私のお母さんに聞いて下さい」と言った。

 ある日、祇念は休みなので彼女はアエンに酒家に来る約束をさせたので、リンアエンは沢山のおみやげをたずさえて、彼女の母親に差し上げお近づきの礼とした。アエンが彼女の家に入ると、異様な事があるのがわかった。家をとりまいている二つの場所にはすべて神台があり、何十個もの大小の異なる神像が祭られている。祇念の母親は四十才左右の女性で、顔色はとても暗い感じで両眼は夜鶯の如くかがやいていた。(夜鶯とは鳥の名で、スズメ位の大きさで、けいたいはとても美しく、羽には光沢があり、尾はスズメよりも長く、常に夜間に鳴くので夜鶯と申す)アエンがおみやげを差し上げると、彼女は冷ややかにありがとうと申した。アエンと彼女の母親は何もしゃべる事がなかったので、祇念をめとりたいと申すと、

「祇念ももう十九才になった。彼女もお嫁に行っていいだろう」
「あなたは第一番目に私に祇念の結婚を申し込んだお人であり、私も当然考えなければならないが、但し、あなたは外国人であり、安南の習慣を知らないでしょうが、我々安南の人は女の子供の一生の事については大変重要思視している。始めから終りまで亭主となるには妻子を捨ててはならない。もしもこのような事をすると絶対に懲罰ちょうばつを受ける」
アエンは「私はわかっています」
母親は首を振りながら「あなたはわかってはいない、ちょつとばかりの警告と思ってはいけない。もし祇念をめとってから捨てたりすると、あなたの受ける懲罰は救いがない物です」
「安心してください、お母さん、私は絶対にかのじょを捨てたりはしません」
「まだ詳しくは言っていません。男の心変わりするのは妻子を捨てる事とは決まっていなく、冷たくしたりするのも又捨てるのにも等しい。私には三っの規則があってあなたがもし祇念をめとりたいのならば守りなさい。第一に祇念の父母が生きている時には国を離れてはいけません。第二に家を出た日は一ケ月を超過してはならず、第三に結婚してからは男は第二の女を作る事は出来ない。この三点をハッキリと知りなさい。ハッキリとわかってから私に会いに来て下さい。」
アエンの回答は「考慮する必要はありません、おかあさんにお願い致します」

 アエンは本当に祇念が好きでたまらなかったのですぐに返事をした。

「それではいいでしょう、三日後に又会いに来て下さい、結納の事について相談しましょう」

 三日後、祇念とアエンは彼女の家にきて、入るとすでに線香・ロウソクに火がつけられていて、香をたいているけむりがあたりに満ち満ちいた。

「リンアエン、あなたは祇念が好きで、彼女をめとって妻にしたいのですか?」
彼はとてもうやうやしく「そうです、、誠心誠意です」
「祇念、あなたはリンアエンが好きで、彼にとついで妻になりたいのですか?」
祇念も又うやうやしく「はい」と答えた。
母親は「よろしいでしょう、あなた達は四十八洞の洞主の面前にひざまづき、一人一人の神に対して誓いなさい。こういうのです、結婚してからは永遠に相手を裏切らず、もし相手を裏切る事があると神の懲罰を甘んじて受けます。あなた達やりなさい」

 この時、リンは始めてわかった。三面のカべの神台の中は四十八洞主の神であって、彼も又知っている。これは安南の婦女が祭る所の神であると。彼は母親の話を守り祇念と四十八信の御神像に対して誓いを立てるが、母親は正堂の比較的大きな尊神を拝めとはまだ申さなかった。これに座している神像は女神であり、身は藤のよろいをつけ、左手は刀をとり、右手には弓矢を持っていて、その容貌は十分兇猛であった。この時、母親はこの尊神を拝むように申しつけた。

「リンアエン、あなたは一人で始祖に対して拝み、あなたが祇念をめとりたいとの心願を告知し、且つ大声で誓いを立てなさい。もし祇念と結婚してから祇念を捨てるような裏切りがあれば、宗祖の懲罰を甘んじて受けます」

 アエンは母親の言った通りにした。机の上には赤黄黒の三色の水各一椀ずつがあり、母親はアエンに

「誓いを立てましたね、しかし誓言は確かだという保証はない。もし祇念を捨てたりするような事があると、その中のひと碗の水の懲罰を受けるのです。どのお碗か選ぶのであり、自分で選びなさい」

 アエンは三つのお碗を見ると最も恐ろしいのは黒色のそのお碗であり、きれいなのは黄色の水であり、それで黄色の水を飲み込んだ。母親は手をたたき

「リンアエン、祇念はこれであなたの妻子だ。私の必要とする結納のお金はあなたの商店の半分の財産である」
「それでは私の商店は祇念と半分あるだけですか」
「そう、あなた達夫婦は力を合わせて経営していきなさい」

 半ケ月してから、アエンと祇念は結婚し、結婚の日には村のすべての人達がきて婚礼に参加し、婚礼は女の家であげ、終わってから母親は喜びながら祇念を抱きしめ「リンアエン、祇念をよろしく」そしてリンは祇念を連れて新居にと帰って行った。
 アエン夫妻は力を合わせて商店を経営し、営業が良かったので彼らは婚後二年のみで、もう一軒のおみやげ店を開こうとした。もう一軒開こうとしたのは祇念の意思であるが、品物の問題でアエンは広東に一回行かねばならなく、アエンと祇念は相談して彼ら達の旅行を計算すると、広州までは海では六日が必要で、もしも増えんが一日伸びたとすると往復は十八日間いり、品物を選ぶには広州・潮州・汕頭せんとうに行かねばならず、少なくとも半ケ月は必要だ。

アエンは「行けない、俺が行ったとしてーカ月を超える事は出来ない。最も必要とする日でも又ー力月と五日左右だ」
「あなたが守っているのは私の事でしょう。今店を開くのに品物が必要であり行きなさい、もし少々の遅れる事があっても、私がお母さんに言っておきます」

 アエンはこれに於いて出発したが、しかし門を出ての行動の予定はしがたく、アエンの船は中途で風にあい、雷州半島(広東省のレイチョウ半島の向かいの島が海南島かいなんとうである)で風を避けて継続して旅を続けて又もどし風にあい船が行くのが困難となり、、広州に到着したのはもう半力月になっていた。広州について又品物を選びそして又潮汕へ行って品物を選ぼうとした。このようにすでに一カ月が過ぎ、広州で船を待っていてもうすでに一カ月と八日が過ぎていた。この八日の日にアエンは病気になった。彼と何人かの友達が晩御飯を食べてから腹痛がしたので、友達は彼を旅館に送って行き、丁医者にきてもらい診察してもらった。丁医者は薬を出して病気を止めようとしたが、夜半になってから重くなり、お腹もより大きくなってきたのである友達は、奇難雑症の専門家である張医者にかえて見てもらってはどうかと申した。張医者は来て見てから言うには

「普通の病気ではない。蠱であり、この人は降頭にやられたのである」
又「この人はどこから来たのですか?」友達は安南から来たと答えた。
「リンさんは安南で商売をしているのですか、ならばキット降頭をかけられたのであり、薬を使うと腹の中の蛇が暴れるので病人は更に苦痛となる。今は病人は痛みで苦しんでいるが、命の危険はない。朝はやくあなた達は早く仏山に行って、望宅婆と申す人を探しなさい。降頭をやっつける方法を知っている。去年も一人の南洋の客があってそれもなおしてもらったのであり、この望宅婆も又安南の人であるが、又別の派の人であり、広州に救いにきて下さいとお願いするとくるが、さて百銀ものお金が必要とする」

 ことこれにいたっては医薬費はどうでもよかった。アエンの二人の友達は友人のため岸壁で一番目の船を待って仏山にと行った。望宅婆は仏山で占い館を開き、又兼ねて産婆をもしていた。彼等たちは詳細にリンアエンの症状をしゃべった。望宅婆は言う

「これは揺洞ようどうの降頭で施法した人は四十八洞の人であり、法カは強く情けがない。十年来、何人もの人が四十八洞の人間の手にかかって死んだ。病者が期限を越えて帰らないとすぐに大法を施用するのであり、もしもあなた達が私をさがしださなかったならば、即ち四十八時間に必ず物凄い痛みで死ぬ」
「救えるがしかし、百銀もの礼金がいるし、船車代もいる」

 二人の友達はすぐにお金を出して望宅婆と共に車に乗って広州の旅館にもどった。この時リンアエンはすでに意識がなくなる事二回、弱い脈、望宅婆は

「おまえ達はタライに水を入れたのを準備し、薬店でひと包みの硫黄を買い、一筒の香を借りてきなさい、半時間でやらなければいけない」

 二人の友達はいわれていき、これはむずかしい事ではなかった。望宅婆は彼らに申しつけ、リンアエンの着ている者を全部ぬがせ、自分も又下ばきをぬぎ、硫黄の粉末を自分の陰部の前面に塗った。アエンの二人の友達は人を救うのが大事であるので、その下を出したのも考える事なく何をするつもりかと思った。望宅婆は自分の下を塗った硫黄の粉末を取ってコップの中に入れた。
 アエンの二人の友達は絶対にこの水をアエンに飲ませるのだと思ったが、誰ぞ知る意外や意外、望宅婆は身を低めてコップの口を自分の陰部に対した、オシッコをするのであった。下ばきをもはかず、手を上げて「早く助けろ、彼の口を開け、まだ何分間かある」二人の友達は急いでアエンの口を開くと、望宅婆はすぐにそのコップの汚物をアエンの口の中に入れると同時にくさいにおいがした。

 アエンは気絶していたので望宅婆は彼のヒタイを三回なぐると、アエンは突然身を起こしてワアーッと大きく叫び、苦痛なる表情は形容しがたいほどである。望宅婆は猛烈に三回彼の背中をなぐると、アエンは身を曲げて口の中より一匹の蛇を吐き出した。蛇の頭が先に出たがその勢いはスゴクはなかった。意識がないようであり、望宅婆は又アエンの背中を三回たたくと第二番自は比較的小さな蛇の頭が又アエンの口の中より出現したが、同様に地面に落ちると動かなかった。連続して叩くこと七回、アエンは大小の蛇七匹を吐き出した。望宅婆は手を止め「早く冷水をあげて、三回飲ませろ」諸事が終わってアエンは腹が痛いと叫ぶのでトイレに入り、長くしてやっと出てくると精神は完全にもどっていた。アエンの二人の友達は彼に経過を説明した。望宅婆は地面の蛇を指さし「これらはあなたのお腹より出てきたのです」と言った。アエンはビックリして

「私のお腹は此の蛇のそうくつだったのですか」
「そう、寄生の蛇のそうくつであり、私がもしこなかったならば蛇があなたのお腹をくいやぶって出てきたのですよ」
アエンは手を合わせ「どうもありがとうございます、お救い下されて」と感謝した。
望宅婆は言うに「これは十四ようの小手先の技で、ズーッとこのようにして旅の物を害してきたのであり、あなたは安南で女子を知りあったのですか?」
「はい、且つ彼女と結婚したのです」
「十四窯の術者は人情道義を言わないのである…」
「但し師婆、今回広州にきたのは妻の祇念が私にくるようにと申したのであり、それは堤岸で一 軒の新しい店を開くので広潮州の品物が必要とするからで、私は安南を離れねばならなかったのです」
「それでは絶対に彼女の家の者が崇りをしたのであり、あなたたちの結婚の時に一つの儀式があって、祇念の母は絶対にあなたに十四祖の前で一杯の水を飲ませたでしょう」
「私は祇念の母親に求婚した時、このようにせよと申しつけられたからです」
「そうです、その時にあなたはすでに降頭をかけられたのです。必ず十四洞の神をすべて拝み、且つ誓いを立てられさせられたでしょう」
「そうです、私は当然従ったわけです」

 望宅婆は言う「これは十四洞の人が法を起こし、そののちに十四洞主の前で誓いをたてれば、あなたのお腹にはすでにつぼみがあった訳で、もしもあなたが彼女らの話を聞いていると、平安に事なしを得るが、もし彼女らに逆らうとつぼみが呪法によって段々と大きくなり、つぼみが十日経ってから蛇の卵が即ちふ化して出てくる。これを十四功と呼び、二つの十四日に分かれるのであり、前の十四日は成期であり、後ろの十四日はこれ殺期である。計算して見なさい、あなたが安南を離れた時に多分祇念の母親はまだ詳しい事がわからなかったのでしょう。知ってからあとで施法をしたのであり、現在あなたはすでに二個の十四日に達しており、蛇は当然腹をやぶって出てくるのです。但し、あなたは幸運にも私が救った。あなたは帰って祇念の母親に八望山の望宅師が十四洞の法術をやぶったと申しなさい。彼女に時代はもうちがっており、十四洞の人は軽々しく人を殺してはいけない。そうでないと八望山は必ず十四洞を除き去る、彼女らに目をさませと言いなさい」
アエンは「師婆は又安南の人ですか」と聞いた。
「安南の八望山の人はまだ人として言うのであり、八望山はこれ又降頭術であり、八望山の大法はこれ正道である」
「あなたは彼女らに望宅師は現在広東の仏山にて医を行って世のためになっている。随時挑戦を受けようと申しなさい、それでは行きましょう。百銀も又収めた」

 アエンはお金を持ち出して多くあげようとしたが、望宅婆は手でいらないとの姿を作り

「八望山の人は初めの時だけを思うのだ」

 望宅婆は自分の衣服を整理して一人で離れて行った。しかし、彼女は行ってからまもなく引き帰してきて、頭より二本の半分白髪の髪を抜き出し、別のもう一つのコップに入れ小さな紙を焼いてコップの中に入れ

「自分を保護したいのならば、その水を呑みなさい」と言った。

 望宅婆は彼が呑んだのを見てから離れ去っていた。リンアエンは二人の友人にお礼を申し

「あなた達二人に救われて感謝します、本当に一生涯忘れません。品物を持って帰ります」

 十五日後、リンは荷物をまとめて貨物船に乗り安南にと帰って行った。彼が西貢の堤岸のアエン商店に出現した時、祇念は彼が突然出現したのを見て、ボーッとしてから前に抱きついて泣きくずれた。

「アエン、私はあなたがもう死んでいると思った」
「私は死んではいない、しかし期日が大幅に遅れてしまった」
「しかし、私の母親はすでに施法をしでいた。私はひざまづいて二回も頼むと、ただ七日間だけくれただけで、もうあとはガーンとして許さなかったのです。あなたは知らないのです、十四洞の施法は一人として腹をやぶられて生きている者はいなく、みんな死んでいるのです」
「しかし、俺は腹をやぶられていないし、又死んでもいない。祇念、私はお前の大恩大義に感謝する。但し、お前の母親はなんと人を許さないのか。大法を施こすのはその人に死刑を下すのにも等しい。しかし、彼女は何にも動じない感じないのだ、私が死ぬとお前も又亭主を失うというのに」
祇念は申す「十四洞はこのように残酷であり、十四海の窯主ようしゅで誓いをした人は肉親の情けでも容赦ようしゃしない。あなたが何もなく帰ってきたのは私は物凄く意外です。あなたは途中で変わった事がなかったの?」
「あった、物凄く変わった事があった」

 リンアエンは広州に着いてからの事を詳しくしゃべった。祇念は彼がしゃべり終わってから、顔色が変わり

「アエンそれは八望山の人なの?」
「そうだ、望宅婆は私に実情をしゃべろと言い、且つ十四洞の人は人々のために軽々しく人を殺してはいけないと申した」
祇念は声を低めて「もうダメだわ。十四洞の人と八望山の人と、絶対に両立しない物で、アエン、この事は私の母にしゃべってはいけません、そうでないと殺される事になるわ!」
アエンは「生きて返ってきて、まだいつでも殺される禍があるのか、生きて返ればお前の母親にきっと追究されるにきまっている。」
「これも又あなたの遭遇であり、あなたが行ってしゃべっても又いいでしょう。アエン、今、私はわかった。十四洞の門人は肉親といへども情けがないんだ。私はもう邪術がキライだ。私の母親も又十四洞の門人にならなくても良いのに。私達は新しい店を別に開きましょう。」

 しかしリンアエンが無事帰ってきたのは祇念の母親の大旦はすでに知っていた。人をつかわして祇念とアエンをつれにこさせた。大旦の家の中では、高いロウソクがともされ、大旦は神の下に座っていて、口の中で何やら唱へていた。彼等が入ってから大旦は念誦するのを停止して、

「アエン、私の前にひざまづきなさい。又それは十四洞祖の前面にひどまづく事です。私が尋ねる毎に答えなさい。ウソがあってはいけません。」
「ようしません、お聞きください。」
「今回家を出て、何で時間を過ぎても帰らなかったのか?」
「お母さん、船が半分の所に来てからかぜにあい、雷州半島過ぎで風を避ける事三日、此のあとで船が出て、逆風で広州にきた時すでに十八日間が過ぎ、又潮州で品物を揃えねばならないので、又船に乗って油頭にきて、日はすでに八日も過ぎ、品物を見るのにも又二日かかり、広州に戻ってから、又広州で物をそろえたので、一ケ月の時間はまだ足りない、しかし商売のためにこの仕事を完成しなければいけなかったのです。」
「途中で何が起こったか?」
「広州にもどって来た時に忍び難い腹痛で、何回も気絶してしまい、そのあとで私の友達が一人の医者に見さすと、医者は私に降頭をかけられたのであり、仏山の望宅婆でないと解く事が出来ないと言われたのです。」
大旦は聞くと顔色を変え「アエン、この人物はどんなだったのだ」
「それは老婆であり、髪の毛には白髪があり、望宅婆をしている」
「望宅婆?フウン、何をしたのか?」
「私を救ってくれました」
大旦がどんな風にして救ったのかと尋ねると、「私はすでに気絶しており知りません、さめた時に私は吐き出し、物凄く苦痛であり、一匹一匹の蛇を吐き出していったのであり、あとになって私が見るとそれぞれの蛇はすべて気絶しているようであったのです。」
大旦は緊張しているようで、「口の中より蛇を吐いたと言っているのか?」
「はいそうです、吐いた時にはわからず、ノドが痛み苦しみあとになって吐き出したのは蛇だと知ったのです」
大旦は声を高らかに上げて「その望宅婆はまだどんな事を言ったのか?」
アエンは故意にためらい「言へません」
「お前にしゃべりなさいと言っているのです、アエン」
「望宅婆が言うには彼女は安南より来たのであり、彼女が申すに施法した十四洞の人は人を害する小術法であり、私に安南にもどってから施法した人に、八望山は十四洞の妖法・人を害するのを許さない。もしも手をひかないと八望山は必ず物事をハッキリとさせると言った」

 大旦は静かにしているといえども、その怒りの形相は少しも収まる事なく、大声で

「アエン、あなたは十四洞列宗祖の前で誓いを立てたでしょう」
「しかし、私は誓いとは何なのかハッキリとわかりません」
大旦更に大声で「アエン、お前は私の子をめとりたいというのでお前に誓いを立てさせ、三つの誓いを守ると申したので、子供をお前に嫁がせたのです。しかしお前は私の子を捨てようとした」
アエンは「お母さんの言っている事はひどすぎる。もしも祇念を捨てようとしたならば、何でもどってくる物か」
祇念は声を出し「お母さん、私は事実をみんな言ったのです。且つあなたに期限をゆるめてくれとも申しました。私はアエンがキットお母さんの大法のもと死んだと思ったのです」
アエンは「お母さん、あなたが大法を施こした人なのですか!」と言った。
「そうです、わたしが大法を施こしたのです」
大旦は又「十四洞大法のもと、何人たりとも法規を犯せば絶対に死を与えられるのだ」
「女の子はやもめになるだけだ」
大旦は言うに「祇念はやもめにはならない」
祇念は大声で「私はアエンを愛しているのです。彼が死んでも私は二度とお嫁には行きません」
「何をバカな事を言っているのです。祇念お前は私の子供ですよ、お母さんの言う事を聞きなさい」
「しかし、あなたの大法のもとお母さんは祇念を子供とは見ていない」
大旦は立って身をおこし「行きなさい、祇念あなたは一生やもめで暮らしなさい。アエンは十日以内に必ず誓い通りになる!」
「祇念、我々は行こう」
祇念は行こうとせず、大旦の眼の前にひざまづき「お母さん、アエンを放して下さい。私達は毎日幸せに過ごしています。お母さん彼を放して下さい」
大旦の怒気は更に高まり「お前も十四洞の人間だろう。家の法を守らなければいけない」

 祇念は離れる時にしきりにナミダをぬぐった。家にもどってからアエンは

「祇念、我々は安南を離れよう。私と広州に返り幸せな日々を過ごそうではないか」
彼女は泣きながら「アエン、私も十四洞の人間であり、安南を離れる事は出来ない。このようにしてアエン、あなただけ逃げて行って!」
「逃げない、祇念、生きるもみんなで生き、死ぬるも又みんなで死のう」
「アエン、私は死なないが、しかし十日以内にあなたは生命に危険があるのです」

 アエンは心の中で望宅婆がかれに護身符を飲ませた事を思い出した。しかし、祇念には言わなかった。アエンは口をついて

「俺は死なない」
「あなた、アエンなんでそんなに信じるの?」
「それはお前だ、お前がいるから信じるのだ!」

 この種の状況のもと祇念は何もしょうがなく、只天命を待つだけであった。

 アエンは二日目、新しい店に品物を色々と揃えて置いて、二日後には開こうとした。安南には一つ俗習があって、新しい店を開く人はカンバンを赤い絹にて包み込み、、神廟に行っておまいりをしなければならないのだ。これは又習俗であり又神のご加護をお願いするのである。アエンは店を開く一日前古い店はしばらく休み、祇念は赤い布で包んだカンバンを持って大仏寺におまいりに行った。大仏寺は堤岸を離れる事二キロの道だったので、彼らは朝早く出なければならなかった。 大仏寺の周囲はすべて高い樹木で、仏寺は荘厳であったが、祭りの日でない時にはひっそりとしていた。彼らはついに吉を求める願かけが終わったので、しばらく休んで帰ろうした。大仏寺の門外は沢山の仏像霊符を売る人がいた。その中で白髪だらけのバアさんが彼らの近くに寄って来て

「霊符はいかが、クビにかけると百事吉祥ですよ、これは西方大仏の霊符です」
祇念はアエンを引っ張り前に歩き「こんな物は買わなくていいわ」
しかし白髪の老婆はあとをつけてきて「老人の霊符を買えば多福多壽ですよ!」
老女は体の前にまわりこみアーッという間もなく霊符をアエンの首にかけようとした。祇念はすぐに前に進み手を上げて老女の手を打った。老女は手をすぐに縮め「なんでこのように老人に対するのですか?」
「言っておきますよ、何の小細Hをするの、私も又十四洞の人間だ」
「それじゃあ、十四洞の人ならば、あなたは反逆だ」

 老女はいかりながら離れて行った。少し歩いてからアエンは尋ねた

「なんであんなにあの老人に対したのか?」
祇念は「あなたわかっている、この十四洞の女人があなたの体に施法しようとしたのですよ、これは母の命令でかける赤いお守り袋は霊符ではない。それは法をかけた紙であり、あなたの体につけると十四洞の大法はこの法紙を通じてあなたの神経・五臓に伝わり入り、只一夜を過ぎればあなたは従って大法の控制に逃げられないのです」
アエンは聞いた「あとはどうなるのか?」
「野獣を見てもあなたには人に見え、大きな川を見ても平地に見え、高い所より下を見ても何十センチくらいしか見えず、道具を見てもタオルであり……あなたは自分からその身を滅ぼし死ぬのです!」
アエンは大いにこわがり「お母さんが私を殺そうとしているのか!」
「お母さんはあなたに言ったでしょうが、あなたはわかっていない。お母さんは十四洞の第二位であり、十四洞大老はすでに年おいて事をしなくなった。お母さんは命令を施こし号令を発する人で、十四洞大法は一人を死さんとすれば、その人は生存出来ないのです。今しがたの大法は大法接種というのです」
「そうよ、私の母は大法接種なのです」
アエンは「接種とは何か」と聞いた。
「通常大法を施こすと相手は一日一日とフラフラしていき、ついには自分で死の旅路をゆく事になり、もしも大法を施しても成らなければ大法接種を使うのであり、これに関しては私は余り知らない。アエン、あなたは法術のわからない人です」
「俺は全然わからん」
「但し、大法を施すも成らず、これは何の原因?」
と祇念がアエンに尋ねると、アエンは「俺にもわからん」と言った。
祇念は「今日からは誰が持ってきた品であっても、あなたはさわってはいけません。+四洞の門規では凡そ老宗祖に告げた者は必ず大法によって執行されるのであり、お母さんは托鉢たくはつの人だから、あなたが死ぬまで止めないわ!」
アエンは聞いた「托鉢人とは?」
「すなわち代々伝わりきたった執法弟子であり、まさに衆洞が一致で継承人と決めてからで、この継承人が即ちこれ托鉢人であり、十四洞は歴代一つの金鉢を相伝してきた。中に十四本のロウソクを入れてあり、洞人がそれぞれともして継承人にわたし、継承者は托鉢を持って老宗祖の神像の面前で、円形にめぐらす(まわす)事十四遍、ロウソクが一本も消えなければ即ちこれ法に合った継承人であり托鉢人となり、一回目がダメなら二回目と三回が限度であり、お母さんは二回試して托鉢人と成ったのです。」
「托鉢人の権力はとても大きいのか?」
「全安南の十四洞の人々を統領して大法を施行するのです」
「大法で更に改めるという余地はないのか?」
「それというのも老祖宗の義前でご報告してあり、又それは洞の人を代表してこの事をするのいう意味であり、必ず托鉢人がご報告した事を完成するのです」
「しかし祇念、俺はお前の亭主でお母さんはお前の母親だぞ、大法も又行ったのであろう。私も又時期をこえてかえらなかった原因をも解釈した。私も又心変わりしていない、もしも必ず私を害死しようとするならば、それは良き夫を害死するのにも等しいぞ、それでも正派といえるのか?」
「これはお母さんの恥が怒りと成った結果で、それというのもあなたが八望山の望宅婆の事をしゃべったからであり、お母さんは更に絶対にあなたを殺そうとしているのです」
アエンは長いためいきをつき、「私は安南に商売をしにきた一人の商人であり、妻をめとるのも一心一意であり、私には心にはじる事がないのに、思いもかけず今日西貢で死を待つのか?」
祇念はキツクキツク彼の手を握りしめ「アエン、私があなたを害したのです。しかし、私はあなたを愛しています」
「私はあなたを愛しているのです。私の生命と同じように愛しているのです。私はキットあなたを無駄死ににはさせません。私の知っている十四洞はただあなたに凶を避け吉におもむくだけなの」
アエンはうれいを発し「お母さんは一法がだめなら、第二法がき、第二法がだめなら第三がくる。金仏寺の前では避けられたが、今後どうのようにして避けるのか?祇念、お前は私に人がくれた物を受け取っていけないと云ったが、それは大変難しい、私は商売をしているのだ、商売は皆手を使うのであり、何で触られずにおくものか?」
「これは確かに難しい事だわ。さてお母さんは必ず之を使ってくるので、もしも人と接触しないまならば、しばらく分店を開かないようにして、あなたは十日間隠れていなさい。十日が過ぎれば、お母さんの施法の時期も終りで、その時は又考えましょう!」
 アエンは「どこに隠れていたらいいの?」と言うと、
「部屋の中で隠れていたらいいの、人にも会っては行けなく、どんな外からの品物であっても、さわってはなりません。それが避けて通れるのです。」
アエンは「良し、分店はしばらく開かないようにしょう」

 アエンは店のうしろの小屋に住み、祇念は彼のために戸を閉じた。

 第一日目は平安無事、アエンの計算ではすでに三日目で、ヒマなので広州より持ってきた本を見、昼に御飯を作ってから祇念はと食べて、アエンは昼寝をした。午後に祇念がまさに店で坐っていると、急に中のアエンの叫び声が聞こえ、祇念が忙しく中に入ってみると、アエンは高く高くベッドの上に立っていて、驚くさまでベッドの所を指した。一匹のコブラがまさにベッドのあたりにいて、アエンのそのところに向かおうとしていた。祇念はすぐに引き返して外に出、コブラはすでに足のカカトの所までは近づいていた。祇念が再び出現した時にコブラに向かって手を放った。コブラの頭はすぐにうしろの方に向かったが、しかし狂ったようにもがいたが、ベッドの上で再び動く事はなかった。祇念は手に二本の木を持ち、蛇をはさみ持った、蛇の体はすべて針であった。

「大丈夫よ、アエン、お母さんの、この法は又破れたわ。」
「今しがた手を放ってから、蛇がすぐ倒れた。」
「これは私が放った針であり、これはお母さんがつかわした蛇なのです。」
「これは毒蛇で、お母さんが施法して駆遣してたのであり、法術を受けてつかわされたので行動は比較的ユックりなので、あなたを救えたのです。大丈夫だから、ベッドを洗ってちょうだい。」

 祇念が再び店に出ると一人の人が門の所に立っていた。

祇念は思わず「お母さん」と叫んだ。
「お前はそんなにそむいて、祇念、お前はお母さんに反抗するというの?」
祇念は「男の生命を守ろうとして、このようにしているだけです」
「悪い奴だ、なんて悪いの、あなたは未だ十四洞に入ってはいないが、但しお前は十四洞の托鉢人の子女であり、お前の半分の血統はすでに十四洞なのだ」
祇念はひざまづき「お母さん、全然何の法力もない人に少しばかりの善意を施して下さいな!アエンには罪がありません。彼はお母さんに対して実情をしゃべったままで、あなたも十四洞の大法師でしょう。そんなに全然法力のない人の相手をしようとしているのですか」
大旦は怒りの声をあげ「お前はアエンが全然法力がないというのか?言って見なさい、彼は何で広州より何もなく帰ってきたのか?」
「それは別の人が救ったまでで、彼自身は知らないことです」
「フウン、十四洞と八望山とは誓って両立しない物であり、八望山の救わんとする人は、私がキット殺してやるのだ。」
「お母さん」

 祇念が母のスカートをとめたが、大旦はけり開き、

「自分でハッキリとしなさい、お母さがいるのかアエンがいるのか」
祇念は「私はアエンを必要としているのです。」
大旦は目を大きく見開き「祇念、私はお前とは縁切りだ。」
「私は筋が通っているのを取ったままで、アエンがもしあやまちを犯したのならば、彼はお母さんの手にかかって死ぬのが当然だが、アエンは何もあやまちがないので、私には彼を死なせるわけにはいきません。」

 大旦はジーッと祇念を見つめて、急に狂い笑った。

「ハァ、ハァ、ハァ、・・」

 大旦は身をひるがしえして歩き去った。祇念はため息をつくと彼女は商店の戸を閉じて、部屋に戻ってきて、元気がなく

「アエン、私はお母さんとケンカをした。私達は関係が途絶えたの、今より以後ただ私は貴方と一生を共にするわ。」

アエンはおそれあわて「お前も害されると思う。」
祇念はあっさりと「嫁げば一心一意に亭主を愛するのてあり、生きるも死ぬも同じで、うらみ言はありません。」と言った。
「祇念、逃げよう」
「私は逃げられない、海中で死ぬでしょう。私は貴方と共にお願いしに行こう、彼女は十四洞の古老ころうであり、又伝鉢をお母さんにあげた人です。伝鉢の年にはすでに80才で、現在もまだ健在で西麻ポオポオというのです。私を物凄くかわいがってくれていて、私達は今彼女に公平をお願いしに行きましょう」

 西麻ポオポオは山中に住み、住んでいるのは一軒の土屋であり、子供や孫が沢山いたが一人だけ土屋に住んで英気を養っており、土屋は垣岸を余り離れない所にあった。祇念とアエンは部屋に入ると即ち一人盤座している老婆を見かけ、頭の毛はすべて白かった。祇念とアエンはいっせいにひざまづき

「西麻ポオポオ、祇念があなたに会いたくてきました。あなたのかわいがっている祇念ですよ!」
「あなたの声を聞いてわかりました。近くへ来なさい祇念」

 祇念はひざまづきながら前に進んだ。西麻ポオポオは彼女の頭を撫でながら

「一緒にきたのはあなたの夫でしょう、私も又婚礼に参加した事があります」
「西麻ポオポオ、リンアエンもひざまづいています」
アエンはうやうやしくたてまつった。
「おまえ達ひざまづかなくていい、、二つの木の箱を持ってきて私の前に座りなさい」
二人は座ると西麻ポオポオは「あなた達、本当にこの老婆の事を思っていてくれたのね」
祇念は「御機嫌をうかがいにきたのです、但し私も又用事があってあなたに会いに来たのです。もしも急ぎの事でなければアエンとともに来たりはしなかったのです」と言った。
「あなた達は新婚なのになんの事があってこの老婆に知らせたいのか」
「私の夫は遠からずして世を去ります。それで西麻ポオポオにお別れにきたのです」

 西麻ポオポオの体は小刻みに動き

「何を言っているの、祇念、なんでアエンが死ぬのか」と驚きの声を上げた。
「この事は西麻ポオポオに詳しく話しなさい」

 祇念は事情の経過を筋道を通して話した。

「西麻ポオポオ、お母さんの意思はとても堅いのですが、私はアエンを愛しているのです。お母さんに対して私はアエンを愛していると宣言しました。お母さんは絶対にアエンを殺そうとしており、アエンは全然法術がないので、おそかれ早かれお母さんの大法にかかって死ぬでしょう」

 西麻(ばば、老女の意)が言うに

「今となっては大旦はこれ托鉢人であり、彼女には権力があってやりたい事はするであろうし、私も又止める事は出来ないが、さてながら法外にも又人情があり、私は大旦と話してみましょう。さて私は行動が不便であり、人をやって来させるようにしましょう。+四洞大法はこれ一時三刻すべて変化があり、大旦がきても遅くなってしまうのが恐れるのです」
祇念は急な気持ちで「それではアエンは絶対に死んでしまう」
西麻姥曰く「私は彼女に意見をしましょう。しかし、時間がとても緊迫きんぱくしている時だ。祇念よ、碗に水を盛ってきて下さい。」

 西麻姥は手をのばし枕の下より一枚の赤い紙を取り出し、水の中につけると、そのお碗の水は赤色に変わった。西麻姥は頭より銀のカンザシを取り出して、そのお碗の水を動かしているのは、丁度赤い水の中に何個かの字を書いているようであった。

「アエン、きなさい。」

 アエンが西麻姥の近くに歩みよると、銀のカンザシで彼のヒタイに線を打った。

「ハダシになって足を上げなさい。」

 と西麻姥は命令すると、アエンははいている物をぬぎ、先づ左足を高く上げると、又その足の裏に線を引き、右足も又同じように足の裏に線を引いた。

「ズボンを抜ぎなさい。」

 西麻姥は意外な命令をアエンにした。アエンは行い、西麻姥は又赤い水につけて、一個の大きな円形をアエンの腹にかいた。即ち腹部より両モモの所までかいた物である。その後に、西麻姥は

「よしよし、七日の内に大旦を見られるでしょう。」
祇念は「西麻姥ポオポオ、アエンは救われますか」
「ただ七日間のみで、アエンは何の大法であっても侵されない。彼はおよそこの何日間のあいだ、はたして生命の危険性あるも大法に対抗し、進攻し難い事であろう。アエンに時間を与えるのも、大旦の気持ちをかえたいと思うからだ。」

 祇念とアエンは両者共ひざまづき、
「西麻姥ポオポオ命を救ってくれた恩にご感謝します。」
「起きなさい、起きなさい、十四洞の人は道理を言わないのではない。」
祇念とアエンはちょっと坐り、そしていとまを告げた。下山の時、祇念は悲しみが喜びになり、
「アエン、救われる。」
「西麻姥老ポオポオは真に慈悲・情けがある」

 三十年の托鉢人をして十四洞の第一人者であり、年老いたから大会を召集して新しい托鉢人を推せんしたわけで、西麻ポオポオはフランスの鬼畜兵の全部の兵隊を嘔吐させ、治療しても彼等には治せなかった。のちにある人が鬼畜兵の隊長にこれは安南人の悪い事をした者に対しての懲罰であるといい、結果隊長と族長とが談判し、族長は三つの条件を提出した所が隊長はすべてOKしたので、西麻ポオポオはそれで法をといたのであり、そんなわけで西麻ポオポオは十四洞の主のみならず、又これ四方の尊敬を受ける人であり、彼女が出面しさへすれば、あなたはきっと救われる」第二日目、西麻姥は大旦を召し寄せてあり、土屋内にて心のうちをしゃべり合った。大旦は先づお茶をさし上げ、同族の礼を行った。

「大姥、大旦をお呼びになったのはどんな事がありますか」
「大旦、十四洞の家規はかえてはならない物であるが、しかし十四洞は善悪を分けている。大旦、あなたの婿むこのアエンは悪人ではない。」
大旦は両手を合掌して「大姥、十四洞の人が大法を執行する時、善悪を分けません。」
西麻姥「大法を施行する前には白か黒かはっきりとさせ、罪悪をわけ、大法を施行したのならば善悪を分けてはいけない。祇念がアエンにとつぐ時に、あなたは尋ねたでしょう」
「しかし、アエンは十四祖宗の前で誓いを立てたのは結局誓いにそむいたのです。」
「それは不可抗力でしょう。途中で暴風雨にあい、行く途中も逆風にあったりして、人がどうにもならなかったからでしょう。」
大旦「大姥、この事はまだ許せますが、しかし彼は八望山の人物が彼を救ったのであり、此の人を除いておかなければ、十四洞には必ず大災難があるでしょう」
西麻ポオポオは頭をゆすりながら「八望山の人は十四洞に敗れてからはすでに安南にいられなくなったのであり、現在、八望山の人はもう安南にはよう帰ってこないのであり、アエンのしゃべったのはそのままを言ったまでであり、あなたはアエンを敵としてはいけない。彼は法術がない人であり、彼を傷害するのは即ちこれわけもなく傷害するのであり、祇念を後家ごけにしてはいけない。」
大旦は合掌して「大姥、大旦の解釈をお聞きくださいませ」
西麻姥「しゃべりなさい。」
大旦「大旦・身は十四洞の托鉢人であり、列祖列宗本のお作りになった大業を守らねばならず、大義にそむく事は出来ません。大姥、リンアエンは八望山の人と結び、八望山の望宅婆はリンアエンに法を施こしてもとにもどし、広州にて死ななくようになったのです。」
西麻姥「八望山の人はすでにちってしまい、一人だけのバァさんごとき心配するに及ばない。アエンは私に一書ってある、当時アエンは気絶していて、彼の友達が草薬師(漢方医)の指示にて仏山に行き、彼を治しにきてもらっただけで、アエンは自分でも又わからなかった。」
「但し、リンアエンがもどってきて、望宅婆のことづけを申し、望宅婆がリンアエンに安南に帰ってから、十四洞の人間は悪い事をしてはならない。そうでないと八望山の人がきたりで十四洞の人間をかたづけると申したのですぞ。」
西麻姥「八望山の人はおおげさだ。さて、リンアエンの伝言は人の言った事をそのまま申しただけであり、祇念に聞いた事を申すと、あなたは老祖宗の面前でひざまづかせて、本当の話をしゃべらせたのでしょう。アエンはそむかなかったのでしょう。もしもアエンが八望山の人であるならば、かれが何でしゃべったのですか?」
大旦「大姥、あなたはリンアエンに対してえこひいきしている。さて大旦には大姥に対して言いたい事が有るのですが、昨晩・私はリンアエンに大法を施したのですが、しかし破られてしまった。私のリンアエンに対する懲罰はこれ十四洞の威信であり、誰が私のほうを破ったのですか?大姥でしょう」
西麻ポオポオは承認し「そうです、私がリンアエンを保護したのです。もしもあらかじめ保護していなければ手遅れになる」
大旦はいかりにふるえたち「大姥、今日十四洞の事は大姥が主としているのですか?」
「あなたが托鉢人であり私が主としているのではない」
「リンアエンのこの事を処理しているのを見れば、それは大姥が主となっているのでしょう」
西麻ポオポオはしばし激しく動揺し「大旦、私があなたに来てもらったのです。ハッキリとこの私の西麻が主となっていない事がハッキリとしているでしょう。もしも私が主となっていれば、あなたにおいで願わず、私は一つの生命を保留したいだけであり、それであなたと良策をはかりたいのです。」
大旦「大姥、十四洞の門規をお忘れになってはいけません。托鉢人が定めた事です。十四の事は別の人が邪魔出来ない物で、大姥は十四洞中で声望が最も高いのですが、但し、今日このような事をすれば、名声はそこなわれるでしょう。」

西麻は聞く「大旦、あなたは自分一人で行うと決定するのですか」
「リンアエンは必ず死にます。絶対に死にます。」
「大旦、あなたは三回も門規を申しますが、門規にはすじ道があり、もし托鉢人が事を行うに門人が異議を堅持すれば、即ち大会を召開して、この事情を決定するのです。あなたは大会を召開しなさい。私は皆んなの意見に服従します。」

 西麻姥も又門規を出したのであり、門規はこのように規定されてあり、大旦は又同意しない訳にはゆかなかった。

「それでは大会を召開しましょう。召集の命令を出しますが、しかし九省の門人が西貢に急ごうとすれば、少しの時間が必要です。私は三日のうちに召開を決定しましょう。門人を召集した大会なので、大姥はリンアエンの護法を解くべきでしょう。」
西麻姥「それも良いが、しかし、あなたは門人の大会を開会する前には、リンアエンを害してはいけません。」
大旦「当然、そうします。」

 十四洞の門規によると、凡そ伝鉢の人がなおいるならば、門人は即ち尊重すべきであり、もし尊重を受けねば、伝鉢(前の継承者)の人は大会を開け、門人の決定にまかせるのであり、門人の決定は即ち決定であり、この決定は托鉢人に渡されるのてある。
 西麻姥の提出で、大旦もそのようにせずばならなかった。
 大旦は真面目にこの事を行い、九省十四洞の代表議事を招集したのであり、大旦は五人にそれぞれ通知を発したのであり、且つ門人会を召開する原因をも言った。

 この争いは西麻姥の意見が正しいのか、それとも大旦の意見が正しいのであろうか?門規を執行する言葉によれば、大旦がリンアエンを懲罰するには又彼女の根拠こんきょがあり、大旦の最も主要なるはリンアエンが対敵する言をきびしく申した行為であり、彼はかつて老祖宗の神前にて誓いをした事があり、それで家法の処置を受けたのであり、大旦は顕然とリンが時期をこえて帰ってきた事に大しては許したわけである。西麻姥は少し感情的になっていて、彼女は小さいときより祇念を可愛がっていたのであり、祇念が彼女にお願いをしたので、彼女は曲げて従ったのであり、老いた人はすべてある種の固執性(へんくつ)がある物で、この一つの事件よりへんくつを徹底的に通したのであり、リンは彼女の亭主であったからによる物である。

 大旦は托鉢人であり、彼女が九洞の集議を開くよう伝達したのは、事情が物凄く厳重なる事を現しているのであり、九洞の人達は通知をもらってから、又連日連夜会議をして、この事に大しての対処を考えたのであり、当時の安南はこれ九省に別、省毎にすべて一人の窯洞ようの主がいて、ある者は多くの門人を持ち、 最も少なくとも又何十人もいた。この九洞とは牙、南、犴、級、しゃらく、 文、狼、沢であり、安南の地区は古の三国の時には南蠻(蛮)に属し、勢力は図、番、旬、洞とに分かれ、図とは統治者で、番とは附する余の俗であり、洞とは即ちこれ一洞の主であり、どの地区でも必ず洞があり、該する区の人民を統治し、一県の権力に相当する。その後歴代の形勢のうつりかわりによりて番・旬はすべてすでに存在せず、 ただ洞があって各自まつりごとをなす。

 洞と洞との間の融合成功は容易ではなく、パァイマァナァは法力で以て各洞を征服しそれぞれの十四洞を女洞主に分け、パァイマァトォが死んでから、十四洞祖宗と尊とびなされ百年を経て時勢の変化によって変化が起き、安南を統治する者はかわったと雖も、但し各省の洞は依然として民間にかくれた力があった。

 安南の九省に即ち九洞があるのは、すでにこれ容易な事ではなかった。大旦は急いで九洞を招集したので、続々とき西貢には一軒いっけんの荒れはてた霊蛇廟があり、ここは十四洞の人達がいつもここで集まっていた場所であった。 この廟の霊蛇廟と云うのは確かに廟の基となる下には少なからずの蛇の穴があり、廟の中に霞いてあるのは一つの女神であり、それで霊蛇神と呼んでいるのであり、昼夜を問わず、蛇のむれは神像の前後左右にまとわりついているが、しかし地面には落ちなかった。神像の前には大きな部屋があり、二三十人が座られる位であったが、廟のマドはすでにこわれていて、廟のカワラも又多くの所で壊れおちていたので、人の近付く事は少なかった。十四洞の大会を開く日に、西麻大姥、大旦に九洞の洞主が来た。

 先づ大旦があいさつを致し、先に九人の洞主に

「十四澗大法は何を以て首となすか?」

 と尋ねた。皆んなは一斉に

「厚く祖宗を信ずるを主となす。」と答えた。
大旦「今、ある人が家法を破った。此の人は即ち本家のむこであり、これは大法の制裁を施こすやべきや?」

 九洞のある人はしばしためらった。その懲罰しようとする人は、これ托鉢人の女むこであり、この時洞主達は両手を合掌して、

「祖宗の教えにたがう者や祖宗をふれおかす者は、殺すにゆるしなし、家の人間ならば自分の父母妻子と雖もさまたげなし。」
大旦「本人は自分の家の人間であってもさまたげなしであるが、しかし西麻大姥は同意してくれない。各人の裁判にゆだねると主張し、今西麻姥に理由を言ってもらいたい。」
西麻姥「大旦の女むこリンアエン、妻と離れる事一ケ月も帰らず、但し、リンアエンは商売のために広東に行き、途中で暴風にあい五日ものび、広州に到った時すでに二十日間も使い、そして満州・汕頭に行き品物を選び、又十日間もなくなり、広州で品物を選んだりしたので、それで一ケ月の期限を超過してしまった。 大旦はリンアエンが時をこえても帰らなかったので、大法を施こしたが、リンアエンは死ななく、それでもどって帰って来た。」
座にいる洞主が即ち問う「何ぞ大法を施用して、生還出来たのか?」
大旦「八望山の人が救い助けたからだ!」
この時すぐにみんながさわぎ「八望山の人がリンアエンを助けた?八望山の人がまだ存在しているのか?」
「事実の通り、リンアエンは生きて戻ってきている。伝言をもってきており、十四洞と呼ぶ人は得意になってはならない。我々に殺生してはならないと申し、そうでないと我々に相手するだろうと申したのだ。」
みんなが「なんだぁ」とさわいだ。
西麻姥はこの時に「皆さんお聞きなさい。リンアエンが帰ってきて八望山の人を話をしゃっべたのは、それは何にも知らず分からなかったからであり、又八望山と十四洞との関係をも知らなかったのである。此の事によってリンアエンに対しで怒り、彼を除こうとしてはならない。」
大旦は大声を出して各洞主に尋ねた「老祖宗の像の前で誓いをしてからは行うべきでありましょう?」
「当然」一斉に返事の声がした。
大旦は「何の事情があろうとも、家法は必ず執行される」
座中の狼洞主は急に声を上げて「殺人で大法のあかしとするのは、これ天に逆らっている事だ!」

 大旦は狼洞主をひと眼みるが、しかし洞主のそれぞれはすべて黒い布で以て顔を隠しているのでだれか分からないが、しかし彼女の怒りはすぐに胸につき上げてきた。

「狼洞主、あなたの言った話しはでたらめで間違っている。十四洞の大法をあかしとするには必ず人を殺すのであり、なんじの身は一つの洞主であるのに、何でこのような説法をするのか!」
狼洞主は低い声を出し「このたび各人が集まった折に、大法をかえるべきであろう。大法で人を殺すのを取り消し、ただ大法は人にこらしめるのに用いようにしようではないか。人が出来ているのはたやすくない事を知るべきで、殺人で以て第一の法としてはならない」
大旦は大声でどなり「狼洞主、お前のこの説法は、丁度八望山の人と同じしゃっべり方だ!」
「これは公平にしゃべっている」
狼洞主「法術の護身であり、人を害するに法術を学ぶのではない。降頭法術も又黒白のケジメをつけねばならず、もしも黒白を分けないのならば、即ちこれは邪教であり正教ではない!」
大旦の怒りはおさまらず、大声で「皆さん聞いたでしょう、狼洞主は十四洞を邪教と申したのです!」

 告は声を上げず、それと云うのもリンアエンの事件で、物事のよしあしが、まだ決まっていないからである。

狼洞主「西麻姥は即ちこれ十四洞の正宗であり、正しい道を主張しようとして、今回の大会を開いたのであり・・・」

 狼洞主の話しがいまだ終わらない内に、大旦は手で以てうしろを指差し、もとの霊蛇のクビの上にわだかまっていた一匹のコプラが下におりてきて、大旦は狼洞主を指差すと、コブラは大旦の指差した方向に狼洞主に向かって飛び走っていった。一本の矢のようで素早い事だ!十四洞の托鉢人はこれ門下の人をこらしめる権を持っており、別の人が干渉出来なく、又救ってもいけないのであり、これは托鉢人の特権であった。
 各自は息をこらして、この事の結果を見詰めていた。コブラが狼洞の顔前に飛び掛かるや、突然と体をひるがえし、何回ももがき、動かなくなった。コブラの眼には各三本の針がささり、頭のテッペンにも又三本の針が合計九本の針がささっているのが、皆には見へた。コプラは横たわってから頭には血が流れ出て、地面に死んでいた。
 西麻姥は突然と立上がり、高い声で

「八望山の人よ、真の姿をあらわせ」

 狼洞主は自分のヅキンを取り去り

「見なさい、八望山の望宅はここにいる」
「八望山なのか、十四洞の人にばけて、十四洞の出来事に参るとは!」
大旦は身を起こし「お前のこの命を取ってやる!」

 大旦は双手を前に向かってはらうと、望宅の座っている所に巨大な音がして、火花が飛び散った。引っくり返ったのは三十才前後の女子であり、皆は一斉に高く「呼七龐こしちほう洞主」と叫んだ。呼七龐は巨雷によって飛ばされ、引っくり返り、地面に落ちた時に頭部が地面にぶつかり手足を広げ、死んでいた。
 皆は各所に目を見張るも、望宅婆が見つからない。西麻姥は高い声で「出てきなさい。望宅」と叫んだが、廟内には笑い声がし、その笑い声がした所に各自の眼は暗い所で望宅を見た。望宅婆は神座の上に座っていて、頭上や体にはすべて蛇がまとわりついていた。望宅婆は笑い声を止め

「八望山の人はわれに到ってすでに碩果せきか(わずかに存する大きなもの)は少しのみ。この三十年の事だ。八望山の五人の伝人の三人は官府悪史(国の悪い役人)の手によって死んだ。これは十四洞の人が罪におよして害したのである!」

 望宅婆は体に蛇をまとわらせながら、前に進み出て

「あなた達十四洞の人々はこの事を知っているだろう。或る者は知らないふりをしている。八望山の人のおとしいれられ害されたのはすべてこれ十四洞托鉢人の陰謀であり、八望山の人を指して邪教となし、まさに人が死んだ事あらば、八望山の門人のなす所と指した物で、これは誰の意見であったのか?西麻、あなたの主見であろう!」
西麻姥は言った「そうだ。十四洞と八望山との勢力は両立しない!」
望宅婆はあざけり笑い「勢い両立しない?」
「一つの国に二つの道はいらない」と西麻は言った。
望宅婆は申した「これは誰が定めた主旨なのか?当初十四洞が外国の兵と戦いをした時に八望山と十四洞とは連合して肩を並べて戦った物であり、なのにあなた達は物の本源を忘れてしまったのであり、のちにあなた達のこれらおろかな門人の代になって、狂ってしまって安南にて天下を独り占めようとて、役所にウソをついて罪におとし入れたのであり、もっとも卑劣ではないか。わたし望宅は独り身で海外に逃亡して、心をこらして中土(中国のこと)の大法を学び、八望山の人の仇をむくいるのを誓ったのであるんだ!」

 西麻姥は命令を出し

「せめ行け、つかまえて役所に引き渡せ、八望山の人は役所がつかまえようとしている人だ!」

 大旦は早くより八洞の洞主をつれて一斉にかかった。望宅婆はよけてから神座の前をあとずさりし、皆はドーッと飛びかかったが、つかまえたのは蛇であり、望宅婆は見えなくなった。
 安南の八望山とは安南の道術の一つの流派であり、最初は十四洞とはそれぞれ分かれ、お互いには干渉しなかった。八望山とは八山に分かれて、望木山・望雲山・望海山・望日山・望田山・望宅山・望牛山・望霧山であり、十四洞と同じく安南の府県に分配していた。三代目になってから両方の宗に争いが商事、田地の事で各本法を施こして敵対しだし、結果は十四洞が敗れ、八望山はその田地(畑)をとったが、しかし十四洞と八望山とは此れよりウラミを持つようになった。

 四代目になりて、安南に邪教の取り締まりがあり、八望山の人は政府によって一網打尽にされた。事情は急すぎて、わずか望宅山の伝人の望宅娘がウワサを聞いてすぐに海外に逃げ出したのであり、安南にいた望宅娘はさすらい広州に到ったのであり、胸にうらみつらみをだき、所々に名師をたづねさがし求め、あてどもなくさすらう事半年、湖南の強土言五鬼師の門に投入し、苦練する事三年、遁身法および三禁五絶の法を習得した。望宅娘は広州にもどり、仏山にて医を行い銭をたくわえ、安南に返って八望山の人の仇をとる準備をしていた此の時に、リンアエンが十四洞の降頭大法のはく害にあい、望宅はその学ぶ所の法で以て、十四洞の大法を破ったのであった。

 これに於て三禁大法を使い、一枚の霊符を書写し、リンアエンに水と共に飲ませ、そのあとで一切をにぎり持ち専び安南にともどった。安南にて十四洞の行事について彼女はすでにハッキりとさぐりわかっていた。
 彼女は始め遁身法を使用し、本形を狼洞主の体にかくし、大旦が十四洞の空雷法を施こした時に、遁法をといたので、狼洞主の原形が現れ、大旦の空雷によって爆死した。九洞の連合会議は変じて狼洞主の葬式となり、すぐに強敵に対面するうす暗いかげが生じた。大旦は声を張り上げ

「今回のワザワイはリンアエンが望宅婆を招いて致来した物であり、必ずリンアエンを処罰しなければならない」
西麻姥「あなたのおんなの子は自分の子であろう。リンアエンはつかわされただけで、彼は処断されるべきではない。現在、大敵が眼前にあり、一致団結して対処すべきであろう。」

 この時、四洞主は即ち西貢に留まって、時待の急変に備えた。
 夜になって、大旦は牙洞主に彼女の家にくるように申し付けた。牙洞主と狼洞主とはいとこ同士の姉妹であった。

 大旦は問うた「あなた、今日西麻姥の話を聞いて、どんな感想を持ったのか?」
牙洞主「西麻姥はリンアエンをかばい助けているのです。」
「しかし、 リンアエンはうちの裏切り者であり、狼洞主のためにあだをむくいねばならない。はじめにリンアエンを処分しようではないか」
牙洞主「姉妹での仇をむくいる事は私はすべて甘んじてします」
大旦「私は托鉢人であり、もし私が事を行うには西麻姥にしゃべらないといけないが、しかし、貴方の妹の仇をうちたいと云うのは、貴方自分で事をやらないといけない」
牙洞主「私は容赦しない」と牙洞主は言った。

 大旦は彼女のために手はずをととのえた。

彼女は「十四洞大法はずーっと八望山の人のを見て用いたのであるが、但し、望宅の今日こんにちの法術はハッキリと安南の法ではない。これは中土(中国)の法術を内に用いている。望宅の出現はたけき龍が飛び出てきたようであり、それでリンアエンを処決するには、相手に知られてはいけなく、秘密的に事をやらねばいけない」
牙洞主「托鉢人のおいいつけを聞きましょう」

 大旦は大きなハコの中より一つの小さいな小箱を取り出し、その中より小ビンを取り出した。
 小ビンの中より一粒の銀白色の小丸をかたむけ出した。

「これは定神丸であり、水銀を練って出来た物で、四十九日にして一丸が練り成る。呑めば神を定められる。神が定まれば、即ち形は移らず、望宅が遁身の法を学び得たとしても、その遁で以て体に入れない。この小丸は即ちこの効果がある。水と共に呑みなさい。」

 牙洞主は飲んでから、大旦は続けて話をした

「あなたは夜半に事を行うのであり、リンアエンの店に行きなさい。リンアエンはうしろの場所に住んでいる」
牙洞主「暗殺するのですか?」
大旦「血を見ては行けない。私は彼を無形のあとがわからないように殺したいのであり、西麻姥に疑いを持たけれはいけない。金甲虫を部屋の隙間より放ち入れると、金甲虫は肉味をかぎつけてそれに向かってはいよじり、そしてよじった人の呼吸気管の中に入っていく・・」
牙洞主は声を失って「祇念も一緒に寝ているでしょう!」
大旦「生きるも死ぬも運命だ。気にしなくていい、行きなさい!」

 牙洞主は夜半に小ビンを持ってアエンの商店にきて、店の後ろの庭に侵入し、そしてユックリと店の後ろの家は独立されていて、門やマドはしめられていた。三カ月が天空に出ており、牙洞主は一歩一歩はってその家に近付いた。家は木造で門やマドはしめられていたが、しかし門の板の中には隙間があり、牙洞主は一ケ所の比較的大きな隙間を選び、小ビンを開いて金甲虫を中に傾むけ入れた。彼女はリンアエンの大きなイビキが聞こえ、彼のイビキの吐く音が一回するや、丁度風がヒョーッと吹いてきたようであり、牙洞主は鼻に何やらむずがゆさを覚えた。彼女はビンを持ち出しあわい月のもとで見ると、ビンの中にはすでに金甲虫がいなかった。それで彼女は空のビンを持って歩いた。

 歩く事二歩にして、鼻の中にある物が、うごめき動いているのが感じられ、手でほじくろうとしたが、はてはて手にも金甲虫がいた。牙洞主は呆然ぼうぜんとしてしまい、もともと金甲虫は入ったのではなかった。彼女はリンアエンのイビキの声を聞くと同時に一吹きの風が隙間の中より吹いてきたのがわかっていた。ダメだ。金甲虫は家の中に入らず、風に吹かれて自分の体にきたのだ。

 牙洞主はそうそうと抜け出し、大旦の家に飛び走り行き、玄関にたどり着かないうちに、ノドの所に劇痛が走り、玄関口にきて、大旦!とひと声叫んでから、倒れ込んだ。大旦は声を聞き、出ると牙洞主を見たので、すぐに家の中に抱き入れた。彼女の体にはまだ二匹の金甲虫ははい動いたのであった。
 牙洞主のノドが段々と縮小していき、すぐに六センチ位の円形にまで縮まり、牙洞主の顔色は青緑色に変わり、両眼は大きく見開き、すでに呼吸はなかった。
 この種の毒液で培養した金甲虫はノドで吸いなめた結果、ノドが素早くただれさけた。大旦の手はふるえ、牙洞主を門外にひっぱり出し、大きな木の下まで至った。

 彼女にはわからなかった。何で金甲虫が牙洞主の体に出現したのかを?現在彼女はドキドキしていた。望宅婆は何の法術を使ったのか?金甲虫が逆に何で牙洞主の体に入ってきたのか?彼女はジーッと思いを凝らしてどのようにしてこの八望山の人間に対するかを考えていた時、急にしたあたりにむづがゆさを感じ、ワー、牙洞主の体にはまだ二匹の金甲虫がいた。彼女は急いではいている物すべてをぬぎ去ると、すぐに一匹の金甲虫が彼女の陰戸に向かって入ろうとしていた。大旦は手でつかまえようとしたが、陰戸内に急に辛棒出来ない劇痛が生じた。家のスミであざける笑いが出された。この声は聞いた事があり、そう望宅婆の笑い声であり、

「大旦、もう遅すぎる。一匹の金甲虫があなたの中に入っていった。すでに痛みで苦い死にするであろう。ハァハァ、大旦、八望山は殺人をしないのだ。」
大旦は痛苦の余り地上をころげ回り「助けて・・」と叫んだ。
「それはあなた自分の大事な物だ。八望山は人を殺さない。あなたが自殺したのだ。貴方が牙洞主を殺し、そのあとで、貴方が自殺をしたのだ。ハァハァ。さて八望山の仇はむくいられた。一つの托鉢人、二人の洞主、十分だ。すでに三人の無実の罪で死んだ人命にあたいする」

 八望山の人は即ちもとは降頭を用いたのであり、望宅婆によって八望山と中国との法を合わせたのが生まれ出た。望宅婆は八望山の血統を維持し、十四洞は更に新たに托鉢人を選んだ。
 望宅婆はもう一歩進んでの復仇をしなかった。リンアエンと祇念はまだ生きていた。
 その後に安南の大法はタイに入り、これは八望山の大法であり、タイの女も又降頭術を使用するのが流行した。但し、望宅婆の遁身・三禁之法は並びに未だに伝わってはいない。それは望宅婆は復仇のために用いた大法であるが、八望山はすでに復讐をとげたので、望宅婆は二度と伝授しなかった。