痴情降(ちじょうこう)
この痴情降とは男子或いは女子を痴情のるつぼと化す物であり、降頭師がこの痴情降を製練する目的は金をもうける事にあり。降頭師には一種の紹介者なる人物がいて、この人物は各大都市に深く入り消息をさぐるのであり、或る男子が心の中で追求している女子がいるも仲々思いを告げられないと云う事を探知すると、その男に向かって「お助けして上げよう、私は一人の降頭法師を知っている、降頭師を紹介してあげよう。降頭師の薬を求めれば、その追求している彼女はおとなしくなって、自分から抱かれにきて共に愛情の海にはまり親密になる。もし男に興味があるならば、この人は連れて行かれて、かの降頭師と会いお金の相談をするのであります。
降頭師が痴情降を製練する原料としては、彼女の写真一枚必ず最近撮った物、彼女の髪の毛少し、彼女の着物少しばかり、一番いいのは彼女の生辰八字がわかれば更に良し。降頭師はこれらの原料によって即ち一種の無色の粉末を練出するのであり、一週間にして品物を渡す。と同時にどのようにしてこの粉末を使うのか教えるのであり、何もわからない時にこの粉末を飲み物或いは食物の中に入れて、その女子が呑んだり食べたりすれば、半日の内に此の法は即ち効果が生じ、法力が彼女を駆使して彼を思うようになり、朝晩彼を思い続け、彼にぜひ会いたいと云う気持ちが発生する。
毎晩、降頭師は壇の中で、その女子の写真に向かって呪を念ずるので、法力はますます強く彼女の体内に侵入するので、女は毎日、彼に会いたいと思い、一日も会わないととても長く会っていない気になるのであり、男女は容易に愛情の海にと突き進んでいくのであります。施法された女子は第一回の痴情降の粉末を口にしてから、自然と第二回目を口にするのであり、三日毎に降頭師は壇の中で作法をするので、その女子は痴情降にあたるのがますます深くなり、彼の嫁さんになるだと決めつけ彼でないと愛せないと云った時に、此の痴情降は完成を告げるのであります。
この種の邪道を行う降頭師は金儲けをしてから、この都市を離れて又別の場所に行き同じようにして行っているのであります。痴情降を求める男或いは女共、男女が相愛してからはすててはならず、もしも男が女に対して術をかけてその女をすてたとすれば、女は痴心病が生じて飲食を思わなくなり、日毎やせ衰ろへて行き、日夜男の姓名を叫び続け、厳重なる程度に達すれば、腕を切って自殺するであろう。もしも女が男に対して痴情降をかけて、その男をすてたとすれば、男子はその女を思い続け、薬石の効果がない時にも又死を求めるであろう。
或る降頭師は養鬼招魂の痴情術を使うのであり、女性の写真を壇上に置きて呪文を念じ、小鬼を駆使してその該する女性の姓名を申して、深夜女性の家に潜入させて、耳のあたりで彼女の名前を呼ばせる。女性が人が呼ぶのを聞いてその声に返答にすると、壇の中の降頭師にはすぐに感応があって、すぐに作法をすると彼女は即ち小鬼招魂の痴情降にかかり自然と翌日、男性とあいて心の悩みを打ち上げ、愛情問題にと入っていくであろう。このように過ぎる事七日七夜、少女の降にあたったのはますます深くなり、痴情は重くなり、一度男を見ただけで喜び、性欲情欲方面も又到達するであろう。
暹羅(シャム=タイ国)の痴情降とは?
運羅の痴情降は一種の符呪の降であって、多数はタイ女が法師に要求して、男子の身に施法をくだすのであり、その男友達の愛する心を移りかわらせず、別の人に情を移せず、彼女には永遠に彼が自分の身辺にあり。以下本当にあったタイ国痴情降を申し上げよう。
ある時、マレーシアの青年テェンがタイに行って商売をしていて、タイの首都バンコクでその友達のフォンさんの紹介により一人の美麗なるタイの女性サァンと知り合いになり、レストランで昼御飯を共にした。
「こちらはサァンさんで、彼女はタイ国のお金持ちの一人娘です。」
「サァンさん、この人はマレーシアのテェンさんで、テェンさんは高熱工業の仕事をしていて、若くて有望ですよ。」
「ミスタータァーン、あなたと知り合いになってうれしいです、タイに来られて歓迎します。」
サァンは礼をこめて両手を合掌しておじぎをするタイ式にて英語にて申した。テェンはすぐに
「僕も本当にうれしいです、タイであなたのようなこんな美人の女性と友達になれて、タイではよろしくお願いします。」
食事の時、彼等はしゃべりあり笑いありで、席上テェンとサァンとの会話はさらにはずみ、旧くより知っているようであり、帰る時にフォンは低い声で広東語で彼に「彼女の電話を取れ」と云った。その意味がすぐにわかり、サァンの家の電話番号を聞いた。
「あなたの家の電話番号を聞いてもいいですか!」
「大丈夫、ここに書いてあげます」
夜になって、フォンは又ナウナウホテルにきてテェンを訪ね、同時にテェンにサァンに電話をかけろといい、今晩十時半、チィアロオスウナイトクラプに遊びュに行こうと言い、サァンにもう一人の踊りのパートナを連れてくるように言うと、サァンは果たしてOKした。
十時にサァンは車を運転して年は三十のタイの女性を連れてきて、フォンの踊りの相手とした。チィアロオスウナイトクラプでは当時すべて黒々としていた人影で一杯であり、舞台上の照明は全部回転していて一種ゆおだやかざる光影であった。
坐る場所が決まってから、フォンはひとビンのXOを注文し、フォンの酒量はとても良く、飲むのは純酒であり、水を入れていなく、その他の三人はすべて冷水、水の塊を酒の中に入れてあり、彼等はしゃべっては飲み、ディスコの音楽が響き渡ると、テェンはサァンに踊ってくださいとお願いし、この時に彼は今晩のサァンは更になやめかしく見え、身も眩む照明のもとでは更に美しさが現れ、彼女の話しをするような眼はいつもテェンを見つめ、彼女はくびれた腰をゆり動かして、動きは素早くうまかった。
「あなたの踊りはとてもいい、スゴイよ!」
サァンはひと笑いし、テェンを望み、
「あなたの踊りもいいわ」と又言った。
台の上の音響は早い曲からユックリとなり、彼等は踊り場を離れず、抱き合ったままの踊りを始めた。この時にテェンの内心は驚嘆した。
「アーッ」
何とサァンの皮膚のなめやかな事、タイ国の香水のにおいがジーンとテェンの鼻の中に入ってきて、それに酔い庫れるさまであり、踊りながらおしゃっべりし、喜びの限りを尽くした。フォンも又その三十才のタイの女性と踊り続け、ナイトクラプの終りまで遊んだ。
その晩よりチェンとサァンの友情は更に一歩進み、商売のための時間以外のその他の時間はサァンといつも一緒で、サァンは水上市場や黄金仏寺、玉仏寺、タイ王の廟、ワニ園、バラ園などには彼等の足跡がすべてあった。晩がたにそして「四面仏」を拝みに行った。タイの四面仏をおがむ人はとても多く、異常なるさわがしさで、そこで香ロウソク花を買い、テェンも同じようにして香をあげてロウソクに火をつけて花をささげ、又四面仏に向かっておがんだ。 サァンは彼女はタイ人であり、真心をこめておまいりしており、両手を合掌して目を閉じひざまづいてお祈りをして居り、何かを求めているようであり、この時テェンの心の中で彼女は結婚を求めているのではないかと思った。彼の予想は的中し、サァンはまさに結婚を望んでいて、サァンは眼を見開き、テェンに
「四面仏に結婚を望むと大変霊験があり、財運を望むと又大変効果があります。」
「そうなの?」
このように答え笑いながら
「よし、僕も又結婚を祈願しよう、四面仏があなたのような美人のお嬢さんをくれるかどうか見てみよう」
「求財はしないの?」
「財はちょっと求めない、僕は四面仏にあなたをくれるように求めるのであり、恋人にしたい」
テェンは冗談のような口振りでサァンにこのように申した。
「あなた悪い、遊ばないで」
この時に彼等の両目同士は見つめ合い、だまりこくってしまっていて、此れより情根は深く重くなっていた。
ややのちサァンはテェンを連れて、ポタヤに遊びに連れていき、海辺の風景を楽しみ、あきてから海へ入って、泳ぎに行。た。水着をきたサァンは更に白くて柔らかくなめらかな皮膚がハッキリとしていて、健康なる体つき、加えて彼女の美麗なる顔付き、コロコロと動いている大きなヒトミ、媚びのある笑みはサァンの非凡さを現れしていた。
「アーッ、何とキレイなのか!」
テェンは内心でひそかにほめたたえたが、しかし口には出さず、横目でサァンを見つめた。
「何を見てるの?」
「あなたのキレサにみとれていたんだ!」
「なんで、タイの女の子の肌は浅黒いのに、なんであなたはこんなに肌が色白いのか?」
「本当の事を言えば、私はチェンマイ出身のタイ女で、普通チェンマイ出身の女の子の肌は色白いの、同時に私の父親は中国の蘇州の人で、私は中国とタイの混血児なの」
「そうなのかどうりで、中国の蘇州は美人の産地で、又チェンマイも又美人の産地なんで、無理もない、あなたの美貌は当然だ」
テェンはサァンをほめたたえ、サァンは笑って、喜びにあふれ楽しく遊び、彼等は黒くなってからようやくポタヤを離れたのであった。のちにあなた・私と愉快な生活を送る内、テェンの父親が電報を打ってきて、水曜日にクァラルンプールに帰ってくるように申し付けて、重要な仕事があってお客と会わねばならず、あさってが水曜日で離れ難くも、父親が水曜日に帰ってこいと言われているとサァンに告げた。
火曜日のタ方、サァンは彼を一人のタイの法師のもとに連れて行こうとし、テェンにその法師にテェンの商売繁盛をお祈りすれば、キット又別の仕事が増えてくると申したので、テェ・ンも喜んだ。サァンから見れば、その目的はテェンを失ないたくない訳で、もしわかれてしまうといつ又テェンに会へるかどうかわからないからであった。サァンはテェンをタイ国の老師の法壇につれていき、法師に対して何かタイ語でしゃべった。当然とテェンには何事かわからなかった。法師はテェンにひざまづくように命じ、彼は銀盆の中の水をテェンの頭上にたらし、そして
「あなた達は縁があり、千里の姻縁も一本の糸で結ばれている。あなたも又ひざまづきなさい、あなた達のために縁を結んであげよう」
「男女は相愛し合い、とこしへに心変わりせず、もし心変わりすれば良くは死ねない、どの一方が愛をすててしまう事があると、愛の神はまさに罰するであろう」
すぐに小さいなほうきで法水につけ、口の中でタイ語の呪文を念じて、二人の体にふりそそがせ、二人にお守りのたぐいをつけた。
「よし、あなた達にタイのお守りをつけてあげて持っていれば、あなた達は平穏無事で、愛情は固く結ばれ、心と心は相通ずるのである」
テェンはタイのバンコクよりクアラルンプールに戻ってきてすでに二週間が過ぎており、ある晩、寝むろうとした時に突然と一種の声がテェンの耳の中に伝わってきた。それはまさしくサァンの声であり、
「テェン、私達は長く顔を会わせていないわ、なんで来てくれないの、私はあなたの事を思って本当に苦しいわ!」
すぐにサァンの影が夢中に現れ、その美麗なる顔、欲望でキラキラしている眼つき、突然と又画面は笑っているのに変わり、その笑いの楽しそうな事、彼に対し
「きて、早くタイに来て、来るのを待っているわ。」
この時テェンはパァーッと眼を開くとサァンの形影は何もなし。自分がいつも心の中で彼女の事を思っているから、こんな夢を見たのだと思ったが、毎日、ねむろうとする前に、この種の幻覚やサァンの声が出現し、一種の無形のカの駆使によって、朝早く会社に行かず、荷物をまとめて、タイ航空に乗ってタイのサァンのもとにと行った。此れより、毎週土曜日にはテェンは飛行機に乗ってタイに行ったのであった。
説によると、テェンは暹羅(タイ)の痴情降にやられたのであり、此のたぐいの痴情降は施こし易きも解きがたく、多数はもとの法を施こした法師に向かって、その法を解いてもらわないようにしないといけないのであります。
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