離魂降(りこんこう)

 この離魂降とは南洋群島の飛降の一種であり、この降にかかった者のその人の霊魂は駆使出竅、即ち体より外に出されてしまうのであり、降頭師の繰縦によって魂が体につけなくなり、降頭師はまたこのような法力をほどにして、魂を時にはあり、時にはなくしたりもできるのであり、なおもしも離魂降にかかった人のその魂が体より外に出てしまってから二十四時間内にもしもどらなかったならば、その体には霊魂がなく、霊魂のない体ならばそれは廃物に等しい物であり、それは又能力がなく、精神もないのであります。
 降頭師がその魂を別の所にやらせて、体につけないようにしたならば、二十四時聞内に即ち無形に死亡するのであります。
 離魂降は一種の頂点の邪術であり、又一番の殺しの方法であり、人を無形に殺し、防ぎようがないのであります。
 過去十何個もの離魂降に殺人事件が発注しており、結果は誰が犯人であったのかわかりようがなかった。

 ここに離魂降の故事を書いてみると、
 バリ島の最初の一日、「ジミーティーン」は彼のインドネシアの友達であるルーディ、ダアナアカアとラマ海の砂浜の上を走っていたが、急にジミーは新大陸を発見したように、そこの一人の女性を指さしルーディに尋ねた。

「そこに立っているあの女性は誰なのだ?」
「あの女性が誰だと言っているのか?彼女はインドネシアの金持ちのお嬢さんであるハウスウナアだ」
「何とまあ魅力的で美しいだろう」

 ジミーは薄いインドネシアのサリーを体に身に着けている、見事なるプロポーション・化粧をほどこした顔、眉毛は上を向き髪は美しく伸び、話をするような大きいひとみ、白いなめらかな皮膚はさらに彼女の美しさを現していた。
 ルーディは話をしながら彼をハウスウナァの近くまで引っ張っていき、このように彼を紹介した。

「ミスハァスウナア、この人はマレーシアのミスター・ジミー・ティーン」
「あなたに会えてうれしいです、ミスターティーン、バリ島に遊びに来られてご歓迎します」
「そうですか、僕もここで貴方と知り合って、本当にうれしいです、ハァスウナアさん」
ルーディ「ここでは何もなく、熱すぎる、我々はラァマァビーチ酒店(ホテル)へお茶を飲みに行きませんか」
「丁度、私も又その酒店に泊まっているので、一緒にいきましょう」

 彼等三人は酒店にてお茶を飲み、しゃべり合い、話しあり笑いありであった。ジミーはハァスウナアと知り合ってから、ハァスウナアは案内役となり、彼をバリ島の名勝、古跡へと見に連れて行き、古塔の前ではジミーに彼女はもっとも美しいカメラアングルを取らせ、彼女も又彼の写真を取り記念として。インドネシアは古くでは爪哇と称し、スマトラの群島であり、歴史的にはとても長い。考古学者の申す所によると、ワンロオーン、バリ島にはかつてインドネシアのバラモン教が入った事があり、バリ鳥のある区域の下からは地下に埋蔵された事があった。インドの古式の家や古いインドの陶器等の用具が掘り出された事があった。バリ島の駆鬼・駆魔のオドリは古いインドのバラモン教の伝統的儀式であり、各種の仮面をつけての舞いは更にそれらの習俗を作り伝えているのであるのです。
 ハァスウナアの詳しい解釈によって、ジミーは各種の史実が明瞭となった。

 彼等は遊びに疲れたので付近の食堂へ休みに行き、そこで味わいのあるバリカレー御飯を一緒に食べた。二人はしゃべり始めてから、急に目と目とが見つめ合い、極めて濃厚なる愛情がパァーッとさいたような感覚でしばらくそのままで、ジミーが先に口を開いた。

「多くの名勝古跡を連れて行ってくれて、貴方にはとても感謝しています」
「どういたしまして、私は土地の者の礼儀を尽くしただけですから」
 あとになってジミーとハァスウナアとの感情はズーッと増進したのでありました。

 ある日、ハァスウナアは主動的にジミーを泳ぎに連れていき、最初、彼等はナアマアピーチの砂浜の上でかけっこをし汗をかいた。薄い服は彼女の体についており、大きくつき出た胸、それに加えて彼女のナヨナヨとした体つき、細い腰、迷わすような眼、さらにはその秀気がせまってくるようであった。ジミーは彼女をボーッとして見つめ、手をのばして彼女をだきしめ、一種の無形なる力によって、押さえきれなくなり、彼女は彼の手を押し開き「早く海水パンツに着替えて、泳ぎにいきましょう」ジミーは着替え、ハァスウナアはビキニーの流行の水着に着替えるとその体の曲線は更にハッキリと現われた。おのおの泳ぎの技術を使い、荒れた波の中にあっても遊んでハァッピィであった。
 遊んでタ方近く日が落ちるころになって、ようやく岸に上がってきて柔らかい砂浜の上に倒れ込み長いキッスをした。
 バリ島で何日間過ぎたか知らず、彼等はもうすでに親密で愛情話しに尽きる事がなかった。今晩は第六日目の晩で、ジミーはハァスウナアに対し

「あしたは飛行機でデンパサルよりジャッカルタに戻らなければならず、用事があって片付けなければならない。」
「それは丁度いいわ、私も又ジャッカルタにもどりましょう、一緒に帰りましょう。」

とハァスウナアはジミーに答えた。

 インドネシアの首都ジャッカルタで滞留する日の中で、上等のコーヒーショップ・ナイトクラプ等の場所で常に彼等二人は連れ添って出入りしていて、ジミーとハァスウナアはすでにもう恋人同士であった。この事はハァスウナアを追い求めている一人の華僑の青年に発覚され、嫉妬が生じてジミーに対してうらみ千万で彼女を奪ったジミーに対していかりたかぶり大金を出して、インドネシアの降頭師に頼みこんだ。何もわからない内にひそかにジミーに対して離魂降の法力を施こしたのであり、ジミーを殺そうとしたのであった。ジミーとハァスウナアのこの恋人同士はやがて別れる時がきて、ジャッカルタの空港でハァスウナアは名残り惜しく離れ難く様子で、感情の涙を流したのであった。ジミーはジャッカルタよりクアルンプールに戻ってから、その気持ちは大いに変わり、いつも怒りつけ、昼に会社に行っても、何もする気がしなくなっかていた。

 一日一日が過ぎた第五日目の夜に怪事件が発生した。ジミーと母親兄弟と晩御飯を食べていたときに、突然と彼はハシを持った手が震え始め、口に入れようとしたおかずが入れらくなり、すぐに彼の顔色は青白くなり、しきりに「頭が物凄く痛い、頭が・・」彼のハッキリとしない口の中で何をしゃべっているのかわからない中で、少し気を付けていると、マレー語をしゃべっているようでもあり、又マレー語でもない。

「ジミー何が起こったのか?お母さんをビックリさせないで」

 ジニーの母親はこの情景を見てあわてふためりた。ジミーは母親の叫び声にも聞こえなかったようであり、この時に丁度ジミーの兄と一人の友達が家に来て、この情景を一見して比較的経験のある彼等にはジミーが絶対に邪にやられたのをわかった。友達はジミーの兄に

「おまえの弟は我々の聞いてもわからないマレー言葉をズーッとしゃべり続けている。俺は彼が降頭にやられたのと断定する。早く早く法師をさがし出さないと、遅くなっては駄目だ。」

 友達は家の人にジミーを抱きかかえて寝ている部屋にもどさせた。それはジミーの母親がジミーの部屋の上に一枚の大きな符を貼った事があるからで、友人とジミーの兄は急いで法師を見付け、六十歳位の文叙ぶんじょ法師で、法師がジミーを見てしらべて即ち驚奇の心情を現れ出した。

「彼は離魂降にやられたのであり、彼の霊魂は体より出されてしまあのであり、危ないときに友達が部屋の大符の作用に感応し、ジミーを部屋の中にもどしたので、それでその霊魂が体を離れなかったのであり、門の大符は相手の駆魂出竅法をこく制し止めるのであって、ジミーの魂魄は寝ている部屋より離れられないのだ。まだ救える。私が壇を作って作法をし、招魂をしジミーの体内にもどらせよう」

 文叙法師は招魂大法を施こすと、すぐにジミーの頭が痛いと叫んだのが、身体を一回ふるわせるとさめたのであった。ジミーの魂の出魂は又戻ってこられたので、その生命を始めて保住出来たのであり、七日七夜の斎戒沐浴をし、符水で以て全身を洗い、本来の姿を回復したのであった。