髑髏(どくろ)―茅山闘髑髏

 これは一種の変幻不測の邪門法術であり、眼の前には世にも恐ろしいドクロの姿を現しシーシーシの音を出し、聞けば恐怖が起こってきて、ゾーッとする物であるが、しかし突然に急にそれが一人の絶世の美女となり、眼は挑発するようなびる目つきで、この瞬間にして男の心はボーッとしてこれに心動かされるのであります。もしもドクロ降の対象が女性であるならば、それは一人の若い立派な男士と変化し、このせつな、これに心傾き愛慕するのであるが、もしこの男士が見るも恐ろしい恐怖のドクロの頭や骨に変わったとすれば、女人は絶対にメチャクチャ驚かされる事であろう。
 このドクロ降はまたとてもみにくい老婦人と変化して、ツエを持ちながらユックリと歩くのであり、又それは又赤ん坊にも変化するのである。このドクロ降とはまことに千変万化。高深不測なのである。
 通常、此の術をあやつる者は多くはこれ巫婆(西洋で言う所の魔女と同じ)であり、男の降頭師はとても少ない。巫婆が学ぶ所の邪法は通常これ魔鬼の化身であり、人類の恐怖心理を以て人を害し、種々の悪夢を生じさせ、心驚き胸はドキドキし、のちに大病となり薬気も効果なく、あの世にと旅立つのである。

 巫婆の恐怖のあだ名「死亡大使(死に神と申すか)」であり、人の生命を掌握し、何時に殺そうとすればその時間に死に、今に到るまでもこの巫婆の秘密をあばいたのはいないのである。もしも死なせようとしないならば、気が狂い、精神に異常をきたし、精神科の専門の医者でもすべてこの病を直す事は不可能なのであります。
 この種の邪術は女性だけが修練できるのであり、彼女らは炉火純青の境地にまで練り得られるが、男性は即ち然らず、それはドクロ降のワザはなよなよしく、絶世の美女に変化するのであり、巫婆は美にも若くにも変じかわれるが、男が美女と成るのは大変難しいが、しかし巫婆がいい男になるのは用意である。
 イギリスの魔術中の魔女も又同じく男や若い女に変化したり出来るのは歴史的に記載されていて、人々の知る所である。この巫婆は年いった老婆のみが修練出来るのではなく、又中年の婦人でも又修練出来るが、しかし彼女には道骨があり、同時に巫術と縁がある事を要し、それで修練出来るが、もしも道骨がないならば絶対に練り成らない。

 去年の事(即ち1986年)、こういう事件が発生した事があった。
 デビイッド・シーは常にシンガポールのホワンと共に商売をして居り、そしてある所で二人の女性と知り合った。一人はロマンサンロスという名前で、もう一人はリサという名前で、二人共に原住民と中国人との混血であり、ロマンサンロスは天生の美麗であり、マユ毛は丸く曲り、眼は大きくてならめかでやわらかい浅茶色の皮膚、リサははっきりとしたマユゲ、キラッとする歯、円型の卵型の顔、長くしなやかで伸びのある髪、彼女ら二人はおのおのその美しさを持っていた。
 ロマサンロスはデビイットと比較的話が合い、リサは即ちホワンが好みであり、彼等二人は彼女らを連れてナイトクラブや酒場等を行き、面白く酒を飲み遊んでハァッピイであった。昼間はシーとホワンとは忙しく彼等の仕事をこなし、夜になればナイトクラブへ行くのが当たり前で、真夜中になってから飲み疲れた体でホテルに戻ったりしていたが、或る時には彼女らを速れて小島へ遊びに行ったり、時々には小島のホテルで共に一緒に過ごした。此れより天生の美麗の持ち主であるロマンサンロスはシーの愛する所となり、リサも又ホワンの物となった。

 シンガポールの競馬の期間、
「おい、ホワン、シンガポールで競馬が始まるぞ、我々はシンガポールにもどろうじゃないか、彼女らをつれて行きたいが、お前はどうだ?」

ホワン、この人はデビイッド・シーのような大ばんふるまいはなく、ケチグセのある人物で

「彼女らを連れていくと2枚もの往復航空券がいるじゃないか、連れて行かないほうが良い」
「お前なぁ、貧乏性がクセとなっているぞ、航空券代が出せないのならば、一切がっさいは俺にまかせろ、しかし俺は三枚の往復航空券代を出そう、ロマンサンスとリサの分だ!お前のは自分で出せ」
「分かった!わかった」

 ホワンは少し機嫌が良くなかった。夜になってからシーはロマンサンロスに一緒にシンガポールに競馬を見に行こうじゃないかと誘った。もしも、もうけたのならば、流行の沢山の服や金の装飾品、時計等を買ってあげよう。それで彼女も一緒に行く事を約束し、リサも又同行した。

帯女友達遠遊、情敵追踪

 デビイッドは大きな叫び声を上げたので、近くの部屋の人達も急に驚いて目をさまし、何事が発生したのか出てきて、ホワンに事情を聞くと、「何もないよ、彼が物凄い恐ろしい悪夢を見て、突然に目をさまして、大声をあげただけで、今は何もない、皆部屋に帰ってくれないか」デビイッドはポカーンとベッドの上に腰を掛けており、ベッドのそばの地面には一枚の青色の大きな布符がひろがり、札入れも地面に散らばっていた。ホワンは昨夜に呑み残したプランデーをコップに入れ、デビイッドに飲ませた。飲んでから精神は比較的落ち着き、ユックリと回復していき、デビイッドは一から十までの悪夢中の幻覚をしゃべり出した。どんな風にしてドクロの頭が出現した模様や、ドクロ頭の兇眼が彼を見ていたとか、ドクロ頭の幻覚中彼に対してしゃべったとか、早くロマンサンロスを連れて帰れとかである。青符を折り畳んで、デビイッドの財布の中に入れたのであり、ドクロ降がその威力を施展した時に、茅山青符の護身の霊効が発生し、符が急に出てきて開き、符にドクロ降のパワーに対し抵抗の作用が発生し、ドクロ降を施法した巫婆は一種の無形の反抗力を受けその反抗力はとても強かったので、法力をもどしたので、デビイッドはそれで禍害に遭わなかった。翌日には彼は正常に回復した。

 第二日目、デビイッドはロマンサンロスとホワンらと朝の食事をして、シンガポールの百貨店にショッピングに行った。デビイッドはシンガポールにきたら、流行の服や化粧品・香水・金時計・金のネックレスを彼女に買ってあげると約束していたのであり、現在彼は土曜日に競馬でもうけたので、彼女が何を欲しいのか、問題はなかった。ホワンもリサに彼女が欲しい服も装飾品を買ってあげた。彼等四人は百貨店で買い物をしてから、酒店(ホテル)にともどり、そして旅行社に行って、三枚のチケットを予約し、デビイッドはホワンにリサとロマンサンロスを連れて帰るように申し付けた。自分は事情があって、クアラルンプールにもどり母親に会わねばならず、同時に仕事をもこなす必要があり、デビイッドは親切にロマンサンロスに対し

「先にホワン・リサと一緒に帰ってくれ、何日かしてから又行くので、安心して下さいな」

 ロマンサンロスは甘えたような声を出して

「そうしたら私と彼等とは先に帰ります。こんな沢山の物を買って頂いてどうもありがとう」
「いいよ、いいよ」

 空港にてロマンサンロスは仲々離れがたい様子であり、真実の感情が現れ出ていた。デビイッドはシンガポールよりクアラルンプールに戻ってからは、昼は何もないが、一度夜になると、彼は突然と高い熱が出て、母親に顔がとても熱い、頭もクラクラする。
 母親は彼にカゼにかかったのでしょう。カゼ薬を呑んでおきなさいと、薬を呑んでからは熱も少し収まったが、しかし頭はやはりクラクラしていた。真夜中を過ぎてからもモウロウとした仲で、ロマンサンロスが彼のベッドに来たように見え、薄い服を来て、媚びをこめて、彼に笑いかけ、同時に一種の声が聞こえてきて

「私を物凄く思っているの?患っているのなら早く戻ってきて」

 デビイッドは両手を伸ばしてロマンサンロスを体近くまで引っ張ると彼女の眉より一種の光芭があって、彼はそれに感応してぼんやりと彼女を抱いていて、しばらくすると彼女の美麗な色気がなくなり、媚びるような眼光も二本の兇光に変わり、声が遠くより近くにきたみたいで

「お前は俺の妹を抱こうと思うな、夢を見るな、お前は彼女の純潔を踏みにじった。俺はお前を放しはしないぞ、苦しめてやる、死ぬまで苦しめてやる」

 この時デビイットが抱いている彼女はドクロの骨に変じてドクロの頭の両眼は凶悪なる殺人の目をしており、デビイットはワァの一声で抱いていたドクロの骨を押し離し、すぐに大声で

「大変だ、大変だ、ドクロの頭が又来た。あれは俺を殺そうとしている。きっと・きっとロマサンロスの兄が巫婆にやらせ法術で以て俺を害しにきたのだ!!」

 彼の今しがたの話で、すぐ隣の部屋で寝ている母親と弟はみんな目をさまし、ボーンボーンボーンとデビイットの部屋をたたいた。

「デビイット何なの!誰に向かって話をしているの!」

 デビイットは母親の叫びにも聞こえていないふうで、依然としてしゃべり続けていたので、母親はこの情景を見て口の中で南無菩薩お助け下さいと即大悲呪を念じだす始末で、弟はドアが開かないので大きい鉄の棒を持って来てドアにぶちあてた。しばらくしてやっとドアが開いたので見ると、兄はブルプルとふるへて部屋の片すみで縮まっていた。多分デビイットの母親が大悲呪を念じ、又菩薩お助け下さいと叫んだので、邪魔は大悲呪を恐れ早く退去したのであろう。

茅山法師、布陣迎戦

 この時デビイットの妹も又さわがしさに目を覚まし、又デビイットの部屋にも来て母親にデビイットに何が起こったかを聞くと、デビイットは今・心臓がドキドキしていてとても恐ろしい、今しがた鬼怪が命を取りに来た。それは全身がドクロで兇光を現している眼、とても苦痛で泣きたい。デビイットに濃いお茶を飲ましてからも皆んなはこの部屋を離れようとせず、デビイットはずーっと大悲呪を喝へていた。二日目の朝早く彼らは茅山の法師を紹介してもらいさがし出すと、茅山法師は一枚の霊符をデビイットの枕の下に置いて天羅地網の結界をくだし、今晩の十二時頃に又くるだろうと予測し、ドクロ降が又来れば今回必ず彼の命を取る事に疑いはなかった。

 部屋に入って各場所に霊符を貼り、陣をしいて邪魔をとらへようとするわけで、茅(チガヤ)を根ごと持ってきてくれと申しつけ、洗ってはいけない、そしてこれをデビイットのベットのフトンの下に置いた。真夜中に到りて女の泣き声が聞こえてきた。この泣き声はゾーッとする程で、冷たい風が吹いてきて茅山法師の机の上のロウソクが吹き消されようであり、茅山法師はこれは巫婆が自分自らきて、その体を変化させ、ドクロ降の法力によって致ったのであるので、そこで正茅の法術で以て巫婆と戦い出した。恐怖の声はこの家を震動させ、旋風がジーンジーンと茅山法師をかこみ、その陰寒は皮膚をすかし通したので、茅山大法を起こすと、一個の熱流がうちもどし、寒気の来侵をこばみ対抗し、熱流が奔騰>ほうとうして陰寒の骨をつらぬく気もアーッと云う間になくなった。

 巫婆はまた幽魂の泣き声を放出し、それは人が聞けば胆をつぶす程であり、 茅山法師はすぐに獅子吼声を展出した。たけくして強烈であり、声はあたりの空気をふるわせて、幽魂の泣く戦いに対し押していった。かかる時巫婆は相手が十分スゴイ相手だとわかったので、地遁によって逃走しようとしたが、アーッと云う間にけつまずいてドクロの頭を地上に落とした。茅山法師は手を一払いしてドクロの頭を黄布の中にたたみ包み入れて、呪文を念じて中にあるドクロを封鎖した。朝なって各自は体を起こし、茅山法師は各人に対して「ドクロ降は私がすでに破り除いた。巫婆の唯一のドクロ頭の宝物も私がすでに収めてここにあり、もう大丈夫だ。」デイビッドは茅山法師の七日間の治療によって、完全に元に戻ったが、二度とその場所には行かなかった。

この髑髏降を行うにつき使う法具としては

 髑髏降祖・髑髏降八師牌(木彫りの八つの髑髏降先師牌であります)・濁骸降面具(髑髏降をおこなうにつきかぶるお面であり、死降を施すに使用される)・髑髏降木身具(木彫りの男女の髑髏で降を施すに用いられる)・髑髏降法杖(木彫りの髑髏の頭のつえであります)・髑髏降古棺(死降を施す巫具であります)の以上があります。